辞める決断を大切にして次の成功につなげよう ― 脳科学者 茂木健一郎氏(第2回)

最終更新日: 2019年11月25日
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朝日新聞社教育総合本部 岩田 一平

辞める決断を大切にして次の成功につなげよう ― 脳科学者 茂木健一郎氏(第2回)

もぎ・けんいちろう◆1962年生まれ。脳科学者。脳とこころの関係を研究する。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。理学博士。東京大学理学部、法学部卒。同大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。2005年『脳と仮想』で第4回小林秀雄賞、09年、『今、ここからすべての場所へ』で第12回桑原武夫学芸賞を受賞。著書多数。

――大卒新入社員の3割余りが3年以内に退社しているという厚生労働省の調査(2016年10月)が発表されました。茂木さんが20代のころにはなかった傾向です。

 ほう。大きな数字ですね。友人で早期退職して大成功した方がいます。経営コンサルタントの波頭亮(はとう・りょう)さんです。彼は東京大学経済学部を卒業して大手都市銀行に就職したけど、やりたかったことと違っていたので何か月もしないうちに辞めてしまい、そういう人って80年代当時は珍しいので新聞記事にもなりました。しばらく就職せずアルバイトしながら勉強し、コンサルティング大手のマッキンゼー・アンド・カンパニーの日本支社に入社して、1988年に独立しコンサルタント会社XSEEDを興し、いま、戦略系コンサルティングの第一人者です。こんなふうに転職して大きく道が開けるひとが、いらっしゃる。

――自分が理想として思い描いていた姿と、いま就いている仕事とのギャップがストレスになって悩んでいる若者がようです。

 日本人は一所懸命がんばることを重視しがちですが、日本文化でいちばん欠けているのは「何かを止める決断をする」ことかもしれませんね。グーグルの最先端研究所のグーグルXは、あるプロジェクトをしていて、それがダメだとわかって中止する決断をした人は昇進するそうです。だれもがよいと思って始めたプロジェクトに対して、これは見込みがないと気づくというのが、実は貴重。就職にもそういうところがあると思いますね。

「辞める決断」って日本ではまだネガティブに考えられがちですが、もっと積極的にとらえてよいと思うし、働き方の意識も少しづつ変わってきましたよね。属している会社のために仕事するのではなく、最近は一人ひとりが自律的に働くことが求められている。そうでないと本人が幸せになれないだけでなく、会社にとっても指示待ち人材ではビジネスが発展しなくなってきているでしょ。米国のシリコンバレーでは、起業して失敗した人は、その失敗から学んでいるから、むしろスキルが高いとみられ、つぎに起業するときはベンチャーキャピタルからより多くの資金を借りられる。再チャレンジを積極的に評価する文化がシリコンバレーを支えていると思います。

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撮影:丸橋ユキ

――日本の20代の転職にもあてはまる?

就職もひとつの実験と考えれば、「ここでなら生き生きと仕事ができるはずだ」と仮説を立て、実際に仕事して検証してみて「どうも向いていない」と悟ったとすれば、それはベストな選択ではなかったわけだから、転職とは、いわば実験条件を変えることであり、科学的にも正しく、むしろ推奨されるべき。どうもそういう感覚がまだ日本では弱いのかもしれません。急成長している、ある外資系企業の方から聞いたのですが、そこは、正社員だろうが契約社員だろうが区別しない。ともかく優秀な人材だったらどんな立場からでも引き上げていくそうです。こういう会社もある。私は、いったん入った会社が向いてないと気づいて転職を決断する若い人を応援したいですね。

それに、志望者と企業とのマッチングについて、最近は企業側も少し変わりつつあるように思えます。たとえば、インターンシップを実施する企業が増えていますが、これって学生にトライアルとして自分たちの会社を事前に知ってもらい、入社してから気づく不幸なミスマッチングを避けようという志向の表れといえるんじゃないかな。

 

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