いまやるべきことを全力でやる。その結果が、次の“いま”につながる ー 諏訪敦彦氏(第3回)

最終更新日: 2019年11月25日
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中村千晶

いまやるべきことを全力でやる。その結果が、次の“いま”につながる ー 諏訪敦彦氏(第3回)

すわ・のぶひろ◆1960年、広島生まれ。東京藝術大学大学院教授。96年に「2/デュオ」で長編映画デビュー。99年に「M/OTHER」(主演・三浦友和)でカンヌ国際映画祭の国際批評家連盟賞を受賞。02年から文化庁新進芸術家在外研修員としてパリに留学。05年に「不完全なふたり」がロカルノ国際映画祭で審査員特別賞を受賞し、フランスでも大ヒット。18年に8年ぶりの新作となる新作「ライオンは今夜死ぬ」を発表。02年から東京造形大学教授に就任、08年から13年まで学長を務めた。近年、小中学生の子どもたちのワークショップ「こども映画教室」にも講師として参加している。

 

――現在は東京藝術大学大学院で教授職に就かれていらっしゃいます。教える立場から、若い世代について思うことはありますか?

 いまの若者は小学生からキャリア教育を受けて「将来、自分が何をすればいいか」について散々考えさせられています。そのなかで自分の将来を考えることが、イコール「職業を考えること」になっている。でも、僕はそうではないと思うんです。僕自身も若いころ「どういう職業に就きたいか」などと考えたことはなかった。ただ「映画のそばにいたい」と思っただけなんです。将来を考えるというのは「自分がどういうふうに生きたいか」「どういうものが好きか」を探すこと。それはそんなに簡単には見つからないですよ。

 高校で授業をすると、生徒たちは「将来やりたいことなんて、ないんですよね」と言う。そんなの当たり前です。10代でやりたいことが見つかる人なんてほとんどいない。ヨーロッパでは20代を通してそれを探しているような人がたくさんいます。日本の大学は学生を集めるために「こんな資格が取れます」「こんな就職先があります」とアピールするけれど、大学の本来の意味はそれじゃないのに、と思います。大学というのは「役に立たないことをやる自由がある場所」なんです。

――新卒入社の3割が3年以内に辞めてしまう時代です。どうお感じなりますか?

 就職しても合わなかったら、辞めればいい。そのほうが健康的だと思いますよ。自分が何者かなんて時間をかけて探せばいいし、いろんな生き方があっていい。でもいまの時代、学生たちは「この先、どうにもならないかもしれない!」と焦っていると感じます。どこにも所属しないことが怖いのでしょう。仕事はやってみないとわからないし、自分に合う仕事はそんなにすぐには見つからないですよ。会社を辞めて、もう一度、大学に行ってもいいと思うんです。

――どうすれば「自分の道」を見つけられるのでしょう?

 とにかく与えられたことを一生懸命、やることだと思います。僕は20代や30代のときに作っていた企業のビデオも、120パーセント自分の力を出して必死で作りました。というのも、仕事をくれていたPR会社の社長が厳しい人だったんです。クライアントがOKしても、僕がそのときに出来る最大限のことをしないと「諏訪ちゃん、これじゃダメだよ」とOKしてくれない。「仕事には常にベストを尽くす」ということを学びました。

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撮影:丸橋ユキ

――目の前にある仕事を全力でこなすことで、道が開けてくるのですね。

 社員やアルバイトに向けて「チキンをどうやってうまく揚げるか」というビデオも撮りましたけど、僕はいつも「なんでこんなことやってるんだろう」などと思ったことは一度もないんです。なぜかというと、自分にとってそれは「映画」だから。そのときできることを、どれだけ自分の力を出し尽くしてできるか。関わる人みんなが満足し、かつ自分も「やった!」という実感がほしい。だからベストを尽くすんです。そこで「まあ、こんなものかな」と手を抜いた仕事をしてしまうと、その後は「まあこんなもん」な仕事しか入ってきません。どんなときもいまの自分ができるなかで、最大限のことをやるしかない。僕はそう思います。