2021.10.13INTERVIEW
社会課題への参画を推進するサービスグラント。社会貢献活動を通してキャリア形成ができる「プロボノ」から、パラレルキャリアが必要な時代のヒントを探る。
認定NPO法人サービスグラント 事務局
上原 一紀(うえはら かずき)様 菊池 斐(きくち あや)様
認定NPO法人としてプロボノ活動を推進し、新しいスタイルの社会参加を加速させるサービスグラント。官公庁や民間企業での就業経験を経て、サービスグラントに参加し、コーディネーターとして活躍される上原さんと菊池さんに、ご自身の経歴や、プロボノが果たすキャリア形成における役割をお話いただきました。これからの時代のキャリア形成において、新しい選択肢となりうるプロボノ。転職や副業とは違うキャリアを築く手法について、探っていきます。
「プロボノ」とは:
「公共善のために」を意味するラテン語「Pro Bono Publico」を語源とする言葉で、仕事で培った経験やスキル、専門知識を活かし、社会的・公共的目的のために取り組むボランティア活動のこと。仕事を続けながら、空いた時間に非営利組織の活動をプロボノとして支援することで、社会的な課題解決に取り組む活動です。
サービスグラントでは、支援先となるNPOや地域団体などの課題やニーズに合わせたプロジェクトを立ち上げ、プロボノへの参加を希望する方々のスキルや専門性を見ながら、コーディネーターがプロジェクトメンバーを編成します。様々な経歴を積んだ方々と、社会課題の解決に向けて5名前後のチームで取り組んでいきます。
(上原)主に二つの仕事をしています。
一つは、東京都との地域包括ケアシステムに関連する事業を担当しています。超高齢社会が進むなか、地域単位での生活支援をより強化することが必要とされています。そうした地域での様々な取り組みを、プロボノによって支援するプロジェクトを推進しています。
もう一つは、企業との協働です。社員教育の一環として、プロボノプロジェクトで非営利組織を支援する「越境学習」を通じ、個々人のスキルアップの機会としていただいています。研修期間は企業やプロジェクトにもよりますが、概ね1ヵ月~半年程度です。研修期間中に、受講者の方に一つの成果物を出していただく一連の取り組みにおいて、コーディネートを担当しています。
(菊池)私も概ね、上原さんと同じような仕事内容です。プロボノコーディネーターとして、企業や行政との連携などを行っています。
私は、横浜市と連携して行っている地域包括ケアシステムの事業を担当しています。いつまでも暮らしやすい社会の実現に向けて、自治体とともにプロボノが果たせる役割を探り、実行していっています。
企業との取り組みでは、企業のCSR活動の支援も行っています。たとえば、担当企業の中には教育支援をCSR活動として掲げる会社があるのですが、教育の事業に取り組むNPOと連携し、活動の推進を支援しています。
―お二人とも自治体や民間企業での勤務経験を経て、ソーシャルセクターであるNPOに転職されています。どのような経緯で転職をされたのでしょうか
(上原)私は2回の転職を経てサービスグラントに入職しました。新卒では自治体の職員として入庁し、市民活動担当部署の業務経験の中でNPOと初めて交流をする機会を持ちました。その後、社会人3年目ごろに、プロボノワーカーとしてサービスグラントのプロジェクトに参加したことが、NPOへの転職を意識した最初のきっかけです。
活動期間は半年程度でしたが、流産・死産にあった方をサポートする団体でプロボノに取り組みました。専門的な知識は持っていませんでしたが、マーケッターとしてその団体のWebサイトの構築に関わり、どのようなサイトにしていけば良いのか、課題を抽出し方向性を考える役割を担いました。
実はこの経験からソーシャルセクターで働きたいと思うようになったのですが、やはり社会の課題に向き合うためには、もっと自分自身が力を付けなければならないことを痛感していたので、民間企業でスキルアップをしようと、初めての転職をしました。
民間企業では人事コンサルとして4年間勤務したのですが、30歳になったときに、30代の自分のキャリアや生き方を考えたんですよね。そして思い切ってNPOに転職しようと一歩踏み出しました。
自分自身、プロボノを通じて大きな影響を受けたこともあって、そのプロボノを推進するサービスグラントに惹かれていました。もっと多くの人にプロボノを体験してもらいたい、社会課題に向き合うNPOを支えたいという思いがありましたね。
―プロボノとして流産・死産をされた方のサポートをするプロジェクトでの経験が、上原さんに大きな影響を与えたのですね
(上原)この団体での経験を通じて痛感したことは、まだ知らない多くの社会的な課題があるということでした。流産や死産と言うのは表立って口にされにくい経験です。当事者の方が声を上げられないような可視化されていない課題があることに気づかされました。
また、プロボノは社外の人と一緒に仕事をする機会でもあります。当時、私がメンバーの中では最も若かったのですが、それでも貢献することはできましたし、何より社外の方の仕事の進め方を見ることは、自分自身のスキルアップにもつながり、今、自分に不足している能力に気付くこともできたように思いますね。だからこそ、スキルを身に着けたいと転職の動機にもなりました。
―菊池さんはどのようなキャリアを積まれてこられたのでしょうか
(菊池)私は学生時代、心理学を専攻し、カナダへの留学を経験したこともあり、新卒ではBtoCの留学プログラムを提案する会社に就職しました。営業職(留学コーディネーター)としてキャリアをスタートさせました。
自分自身、旅行が好きなこともあって、20代の内に世界を旅したいという思いが捨てきれず、退職してしばらくの間、実は約1年、世界を一人で周っていました。
そして帰国後、転職を考えたときにBtoCの営業経験があるのだから、同じく営業としてステップアップするなら、法人への営業も経験したいと考え、BtoBの営業に挑戦しました。外資系のアウトソーシングの企業で、ソフトウェアライセンスの代理店営業を3年ほど経験しています。
ただ、学生時代のボランティアの経験や海外を長期で旅行していた中で社会的な課題を目の当たりにし、社会課題を直接解決するような仕事をしたいと思っていましたので、30代前半のタイミングで全く違う分野に飛び込んでみようと一歩踏み出しました。
―ボランティアや海外でのご経験から、どのような気付きがあったのでしょうか
(菊池)ボランティアでは児童養護施設の子どもたちと一緒に過ごす活動をしていまして、自分の過ごしてきた家庭環境とは全く違う環境で過ごしてきた子どもたちを目の前にし衝撃を受けました。
また、学生時代にカウンセリングを学ぶなかで、カナダでの留学時にDV被害者の方を対象にした電話相談も経験したことがあります。
社会課題と一言でいっても、たくさんの種類がありますし、何か専門的な知識を持っているわけでもありませんでした。一つの課題にコミットするよりも、幅広い社会課題の解決に参加することができ、少しずつでも貢献できるような仕事ができるサービスグラントに興味を持つようになっていきました。
サービスグラントは中間支援組織として、幅広い課題解決に関与しています。まさに自分が希望するようなNPOではないかと思いましたね。
―お話を聞いているとお二人とも社会課題を目の前にしたときの気づきや意識を持ち続け、キャリア形成されたように思いました。そこまで深く意識を持ち続けられた背景には何があるのでしょう
(上原)ずっと持ち続けてきたというのは、少し違うかなと思います。たしかに、社会貢献をしたいという思いは持っていましたが、プロボノで経験した流産・死産の支援団体でずっと活動し続けたいと思っていたわけではないですし、むしろ当事者でもない自分がどこまで入り込んでいって良いのかという葛藤もありました。
ただ、前職時代、30歳でキャリアに関してのコーチングを受けた際に、自分の中で目標を決めきれていないことに気づかされて、そこから今の仕事を続けることが、自分のやりたいことなのかと考えるようになったのです。
自分には可能性がまだまだたくさんあるのに、何かを選択するのを怖れてしまっているのではないか、一歩踏み出すことができれば新しいものが見えるのではないか、そう考えて転職することを決めました。ですので、社会課題にアプローチする機会を与えられたという方が正解なのかもしれません。
先ほど、菊池さんからサービスグラントは中間支援組織だというお話がありましたが、まさに幅広い社会課題の解決に貢献できるのではないかと思い、参画を決めました。
(菊池)目の当たりにした社会課題は、一人では到底解決できないような大きなものです。ただ、課題に気付いたのに行動を起こしていないことに、何かモヤモヤしたような気持ちを抱き続けていました。
友人にソーシャルセクターで活躍している方がいるのですが、すごくキラキラしているように見えて、目的意識を持って働くことは素敵だなと思い、私自身もそうしていきたいと考え、転職を決めました。
―地方自治体や民間企業での経験を活かして転職されていますが、NPOでの仕事で求められるスキルや考え方には何か違いがあるのでしょうか
(上原)ビジネススキルという面では、むしろこれまでの経験を大きく生かすことができているように感じますね。ステークホルダーは多岐にわたり、個人もいれば企業もあります。向き合い方は自治体や民間企業も変わらないのではないでしょうか。
ただ、仕事への考え方や姿勢は異なりますね。営業目標などはないので、お金のノルマではなく、解決すべきミッションに向けてどれだけ進捗があるのかということを考えていかなければなりません。
(菊池)私もサービスグラントにおいてはこれまでの経験が生かせているように感じています。個人的な感覚ですが、ソーシャルセクターや非営利団体と言うのはベンチャー企業のようなイメージが近いのかもしれません。ステークホルダーが多岐にわたるというお話がありましたが、民間企業や自治体、NPOなど様々な団体への対応が必要になります。それぞれに対して、企画書を書いたり、活動をPRするイベントを実施したりというのは、まさにベンチャー企業のように一人で色々なことをするのと近い感覚だと思います。
また、上原さんと同様に、KPIなど明確な数値目標がないことは民間企業と大きな違いだと思います。前職は営業職だったこともあり、売上目標などがあったのですが、現在はそうした数字による個人目標はありません。
あくまで組織のミッションが何であり、自分の仕事がそのミッションの達成に紐づいているのかということを常に意識していかないといけないのは大きな違いですね。
―現在の仕事のやりがいや、難しさを感じる点はどのようなところにありますか
(菊池)先ほどもお話にありましたが、社会課題は非常に大きく根深いもので、一人で解決することはできません。解決に向けてすぐに結果が見えてこないことに、もどかしさや難しさを感じることはありますね。
ただ、色々な人と一歩ずつ解決に向けて活動し、それを間近で見れるのが、この仕事の一番面白い部分ではないでしょうか。
これまで、その課題分野に対して知識や経験のなかった方がどんどん視野を広げていく姿が見られるというのは非常にやりがいに感じますね。
(上原)転職をしたときに「コングルーエンシー」ということを考えていました。自分の信念と行動が一致しなければただストレスになってしまうということです。
その点、サービスグラントに所属し、ミッションに向かって活動していくことは、信念と行動が一致しているということでもあり、やりがいを日々感じることができていますね。
難しさという点では、これまでの仕事と比較すると、個人目標がはっきりしないというところにあると思います。自分の中で物差しを持っておかなければ、非営利組織での仕事は成立しにくいと思います。
自分の仕事がミッションに対して貢献できているのかどうかという点でもそうですし、何をもって仕事ができていると判断するのかという点でも、物差しがないと分からなくなってしまいますね。
また、ミッションに対して強い思いがないと仕事を続けることは難しいと思います。お給料も大事ではありますが、それだけのために働く、ということでは続かない仕事だと思いますね。
―そんなお二人にとって、今後実現したい目標やビジョンはありますか
(上原)個人の目標としては、まずはプロボノのコーディネート能力を磨いていきたいですね。コーディネートすることは非常に難しいものです。皆さん初対面で、そこからチームビルディングし、課題を共有し、そしてソリューションを生み出していかなければなりません。自信をもって出来るようになることが、まず、実現したい目標です。
(菊池)私もコーディネートが一番大事なことだと思っています。お話の冒頭で自治体と協働する事業を担当しているとお伝えしましたが、それをどうやって定着させていくのかということが、取り組みの中で重要なポイントだと思っています。
たとえば、1回プロボノとして参加された方が、その参加をきっかけに、地域活性化にむけてどのように継続して取り組んでくれるのかを追っていかなければいけないと思います。そのため、定期的なアンケートを実施するなど、プロボノ参加後を定点観測する施策を実施しています。
プロボノへの参加が、その人にとって次の一歩となるように繋げていきたいです。サービスグラントが手掛けるプロジェクトは、支援先となるNPO、プロボノワーカーの方々、協働してくれるパートナーがいてこそのものです。だからこそ、コーディネート力を高めて、継続して社会貢献活動に参加し続けてもらえるようにしたいですね。
―ここからはプロボノが果たす役割や効果についてお伺いしたいと思います。まず、20代の方もプロボノには参加されているのでしょうか
(上原)はい、参加されています。参加者の割合としては、30代半ば~40代半ばの方がコアとなっていますが、20代から60代、ときには70代まで幅広い世代の方に参加いただいています。20代の方の参加が難しいということはないと思います。
20代の方が参加するにあたっての理由としては、今の仕事に対してモヤモヤした気持ちをもっていて、外の世界を見てみたいという方が多いように思いますね。今の仕事で良いのだろうか、という気持ちから、何か新しい刺激を受けてみたいのだと思います。
―お二人の経歴をお伺いしても、プロボノが「キャリア形成」で果たす役割・効果は大きいように思えます
(上原)キャリア形成においては、主に2つの役割・効果があるように思います。
一つは今後のキャリアの模索に役に立つということです。色々な人とチームを組んで取り組むのがプロボノです。他の会社や全く別の仕事をしている方の進め方や考え方を知るにはうってつけの機会になると思います。
社会課題の解決という目標に向かって活動していく中で、自分自身の選択肢も広がっていくように思いますね。そして、プロジェクトに頻繁に参加するようになり、プロボノが日常となっていくと、常に社会貢献活動に参加しているという意識も持てるでしょうし、何より、社会課題を解決したいという思いを持ったときにすぐに貢献することができるようになると思います。
二つ目に、人生100年時代と言われる中でパラレルなキャリアを持てることは、それだけで資産になると思います。プロボノはスキルアップにもつながりますが、人脈も作ることもできますので、視野も広がっていきますし、人によってはチームマネジメントの経験をすることもできますので、そうした能力も身に付くのではないでしょうか。
―プロボノにはキャリア形成においても大きな効果がありそうですね。ただ、20代の方の中には自分自身のスキルに自信のない方もいるかもしれません
(上原)社会人として自分自身にスキルがないと思っている人も多いのは事実です。ただ、それは20代に限らず言えることだと思います。私たちが案内をしているのは、チーム単位で取り組むプロジェクトです。チームの中で、一部の役割を担うことが出来ればそれで良いのです。
私が経験したマーケッターという仕事は、課題を抽出してプロジェクトの方向性を示す役割なのですが、人の話を聞いてまとめることが出来れば、どなたでも挑戦できるものだと思います。
プロボノのチーム編成において、年齢や性別は関係なく、あくまでフラットなチームとなることを原則としています。若い方の視点がチームにいい影響を及ぼすことはよくあることですし、フラットで気軽に発言できるからこそ、上の世代の方にもいい影響を与えることができると思います。
―お二人のご経歴やNPOで働くこと、キャリア形成におけるプロボノの果たす役割・効果についてお話を伺いました。最後に、この記事を読む20代の読者の方へアドバイスやメッセージがありましたらお願いします
(上原)プロボノに参加してほしいですね(笑)。プロボノとして社外で活動するにあたって、恐らく20代ですと一番若い存在になると思うのですが、それは特権だと思います。他の参加者から刺激やフォローを受けながら色々なことにチャレンジできるのは貴重です。
パラレルキャリアを築くにあたって、副業などもありますが、いきなり報酬をもらうことは難しいかもしれません。そのような場合は、プロボノが選択肢になりうると思います。
プロボノは適応能力が身に付くと思っています。全然知らない人とコミュニケーションをとり、積極的に意見を発してプロジェクトを進めていくものです。社外の人とそのような関係をもつというアクションをしただけでもすごいことだと思います。
「みんな違ってみんな良い」と有名な言葉もありますが、今の時代は異なる価値観を持つ人と仕事をする時代です。その中で成果を出すことが求められています。その基礎力が、プロボノを通じて身に付くと思います。
また、企業などでマネジメントを経験された方も参加します。プロジェクトの進め方を見るだけでも学べることは多いはずですし、本業とプロボノを両立するということは、タイムマネジメントの能力も身に付くはずです。
(菊池)私も上原さんと同じでプロボノにぜひ!と思っています(笑)。今の会社に居続けて良いのかとモヤモヤした気持ちをお持ちの方もいるとは思いますが、プロボノであれば、転職することに振り切らずに、新しい経験を積むことができます。
また、個人的な経験からも、自身のキャリアの最初の頃の模索期間と言うのは、今後の人生において非常に重要な経験ではないかと思っています。その模索するという行為の中に、気軽に社外で経験を積むことができるプロボノを選択肢として入れていただければと思いますね。
できるだけ早い内にプロボノに参加してもらって、ソーシャルセクターというものを理解してもらえることも、サービスグラントの一人のスタッフとしては、嬉しいことでもあります。
認定NPO法人サービスグラント
2005年設立。日本における「プロボノ」のフロンティアとしてスタートし、2009年にNPO法人化。「社会参加先進国へ」を目指す社会ビジョンとして掲げ、仕事で培った経験・スキルを活かして社会貢献活動をする「プロボノ」の機会を数多く創出。復職を目指す育休ママ・専業ママを対象にした「ママボノ」や、社会参加のために独自開発したプラットフォーム「GRANT」といったユニークな取り組みも実施している。自治体との協働では地域課題の解決に貢献。企業との連携活動においては「社会課題解決型人材育成プログラム プロボノリーグ」を通じ、社員育成を実施する他、CSR活動などにおいても実施のサポートを行っている。メディア掲載実績も多数。
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上原 一紀(うえはら かずき)様 菊池 斐(きくち あや)様
認定NPO法人としてプロボノ活動を推進し、新しいスタイルの社会参加を加速させるサービスグラント。官公庁や民間企業での就業経験を経て、サービスグラントに参加し、コーディネーターとして活躍される上原さんと菊池さんに、ご自身の経歴や、プロボノが果たすキャリア形成における役割をお話いただきました。これからの時代のキャリア形成において、新しい選択肢となりうるプロボノ。転職や副業とは違うキャリアを築く手法について、探っていきます。
「プロボノ」とは:
「公共善のために」を意味するラテン語「Pro Bono Publico」を語源とする言葉で、仕事で培った経験やスキル、専門知識を活かし、社会的・公共的目的のために取り組むボランティア活動のこと。仕事を続けながら、空いた時間に非営利組織の活動をプロボノとして支援することで、社会的な課題解決に取り組む活動です。
サービスグラントでは、支援先となるNPOや地域団体などの課題やニーズに合わせたプロジェクトを立ち上げ、プロボノへの参加を希望する方々のスキルや専門性を見ながら、コーディネーターがプロジェクトメンバーを編成します。様々な経歴を積んだ方々と、社会課題の解決に向けて5名前後のチームで取り組んでいきます。
ソーシャルセクターで働くことを選んだのは、衝撃を受けた社会課題を目の当たりにしたから。
―まずはお二人の現在のお仕事の内容について教えてください(上原)主に二つの仕事をしています。
一つは、東京都との地域包括ケアシステムに関連する事業を担当しています。超高齢社会が進むなか、地域単位での生活支援をより強化することが必要とされています。そうした地域での様々な取り組みを、プロボノによって支援するプロジェクトを推進しています。
もう一つは、企業との協働です。社員教育の一環として、プロボノプロジェクトで非営利組織を支援する「越境学習」を通じ、個々人のスキルアップの機会としていただいています。研修期間は企業やプロジェクトにもよりますが、概ね1ヵ月~半年程度です。研修期間中に、受講者の方に一つの成果物を出していただく一連の取り組みにおいて、コーディネートを担当しています。
(菊池)私も概ね、上原さんと同じような仕事内容です。プロボノコーディネーターとして、企業や行政との連携などを行っています。
私は、横浜市と連携して行っている地域包括ケアシステムの事業を担当しています。いつまでも暮らしやすい社会の実現に向けて、自治体とともにプロボノが果たせる役割を探り、実行していっています。
企業との取り組みでは、企業のCSR活動の支援も行っています。たとえば、担当企業の中には教育支援をCSR活動として掲げる会社があるのですが、教育の事業に取り組むNPOと連携し、活動の推進を支援しています。
―お二人とも自治体や民間企業での勤務経験を経て、ソーシャルセクターであるNPOに転職されています。どのような経緯で転職をされたのでしょうか
(上原)私は2回の転職を経てサービスグラントに入職しました。新卒では自治体の職員として入庁し、市民活動担当部署の業務経験の中でNPOと初めて交流をする機会を持ちました。その後、社会人3年目ごろに、プロボノワーカーとしてサービスグラントのプロジェクトに参加したことが、NPOへの転職を意識した最初のきっかけです。
活動期間は半年程度でしたが、流産・死産にあった方をサポートする団体でプロボノに取り組みました。専門的な知識は持っていませんでしたが、マーケッターとしてその団体のWebサイトの構築に関わり、どのようなサイトにしていけば良いのか、課題を抽出し方向性を考える役割を担いました。
実はこの経験からソーシャルセクターで働きたいと思うようになったのですが、やはり社会の課題に向き合うためには、もっと自分自身が力を付けなければならないことを痛感していたので、民間企業でスキルアップをしようと、初めての転職をしました。
民間企業では人事コンサルとして4年間勤務したのですが、30歳になったときに、30代の自分のキャリアや生き方を考えたんですよね。そして思い切ってNPOに転職しようと一歩踏み出しました。
自分自身、プロボノを通じて大きな影響を受けたこともあって、そのプロボノを推進するサービスグラントに惹かれていました。もっと多くの人にプロボノを体験してもらいたい、社会課題に向き合うNPOを支えたいという思いがありましたね。
―プロボノとして流産・死産をされた方のサポートをするプロジェクトでの経験が、上原さんに大きな影響を与えたのですね
(上原)この団体での経験を通じて痛感したことは、まだ知らない多くの社会的な課題があるということでした。流産や死産と言うのは表立って口にされにくい経験です。当事者の方が声を上げられないような可視化されていない課題があることに気づかされました。
また、プロボノは社外の人と一緒に仕事をする機会でもあります。当時、私がメンバーの中では最も若かったのですが、それでも貢献することはできましたし、何より社外の方の仕事の進め方を見ることは、自分自身のスキルアップにもつながり、今、自分に不足している能力に気付くこともできたように思いますね。だからこそ、スキルを身に着けたいと転職の動機にもなりました。
―菊池さんはどのようなキャリアを積まれてこられたのでしょうか
(菊池)私は学生時代、心理学を専攻し、カナダへの留学を経験したこともあり、新卒ではBtoCの留学プログラムを提案する会社に就職しました。営業職(留学コーディネーター)としてキャリアをスタートさせました。
自分自身、旅行が好きなこともあって、20代の内に世界を旅したいという思いが捨てきれず、退職してしばらくの間、実は約1年、世界を一人で周っていました。
そして帰国後、転職を考えたときにBtoCの営業経験があるのだから、同じく営業としてステップアップするなら、法人への営業も経験したいと考え、BtoBの営業に挑戦しました。外資系のアウトソーシングの企業で、ソフトウェアライセンスの代理店営業を3年ほど経験しています。
ただ、学生時代のボランティアの経験や海外を長期で旅行していた中で社会的な課題を目の当たりにし、社会課題を直接解決するような仕事をしたいと思っていましたので、30代前半のタイミングで全く違う分野に飛び込んでみようと一歩踏み出しました。
―ボランティアや海外でのご経験から、どのような気付きがあったのでしょうか
(菊池)ボランティアでは児童養護施設の子どもたちと一緒に過ごす活動をしていまして、自分の過ごしてきた家庭環境とは全く違う環境で過ごしてきた子どもたちを目の前にし衝撃を受けました。
また、学生時代にカウンセリングを学ぶなかで、カナダでの留学時にDV被害者の方を対象にした電話相談も経験したことがあります。
社会課題と一言でいっても、たくさんの種類がありますし、何か専門的な知識を持っているわけでもありませんでした。一つの課題にコミットするよりも、幅広い社会課題の解決に参加することができ、少しずつでも貢献できるような仕事ができるサービスグラントに興味を持つようになっていきました。
サービスグラントは中間支援組織として、幅広い課題解決に関与しています。まさに自分が希望するようなNPOではないかと思いましたね。
―お話を聞いているとお二人とも社会課題を目の前にしたときの気づきや意識を持ち続け、キャリア形成されたように思いました。そこまで深く意識を持ち続けられた背景には何があるのでしょう
(上原)ずっと持ち続けてきたというのは、少し違うかなと思います。たしかに、社会貢献をしたいという思いは持っていましたが、プロボノで経験した流産・死産の支援団体でずっと活動し続けたいと思っていたわけではないですし、むしろ当事者でもない自分がどこまで入り込んでいって良いのかという葛藤もありました。
ただ、前職時代、30歳でキャリアに関してのコーチングを受けた際に、自分の中で目標を決めきれていないことに気づかされて、そこから今の仕事を続けることが、自分のやりたいことなのかと考えるようになったのです。
自分には可能性がまだまだたくさんあるのに、何かを選択するのを怖れてしまっているのではないか、一歩踏み出すことができれば新しいものが見えるのではないか、そう考えて転職することを決めました。ですので、社会課題にアプローチする機会を与えられたという方が正解なのかもしれません。
先ほど、菊池さんからサービスグラントは中間支援組織だというお話がありましたが、まさに幅広い社会課題の解決に貢献できるのではないかと思い、参画を決めました。
(菊池)目の当たりにした社会課題は、一人では到底解決できないような大きなものです。ただ、課題に気付いたのに行動を起こしていないことに、何かモヤモヤしたような気持ちを抱き続けていました。
友人にソーシャルセクターで活躍している方がいるのですが、すごくキラキラしているように見えて、目的意識を持って働くことは素敵だなと思い、私自身もそうしていきたいと考え、転職を決めました。
NPOと民間企業・自治体の仕事の違いはー
―地方自治体や民間企業での経験を活かして転職されていますが、NPOでの仕事で求められるスキルや考え方には何か違いがあるのでしょうか(上原)ビジネススキルという面では、むしろこれまでの経験を大きく生かすことができているように感じますね。ステークホルダーは多岐にわたり、個人もいれば企業もあります。向き合い方は自治体や民間企業も変わらないのではないでしょうか。
ただ、仕事への考え方や姿勢は異なりますね。営業目標などはないので、お金のノルマではなく、解決すべきミッションに向けてどれだけ進捗があるのかということを考えていかなければなりません。
(菊池)私もサービスグラントにおいてはこれまでの経験が生かせているように感じています。個人的な感覚ですが、ソーシャルセクターや非営利団体と言うのはベンチャー企業のようなイメージが近いのかもしれません。ステークホルダーが多岐にわたるというお話がありましたが、民間企業や自治体、NPOなど様々な団体への対応が必要になります。それぞれに対して、企画書を書いたり、活動をPRするイベントを実施したりというのは、まさにベンチャー企業のように一人で色々なことをするのと近い感覚だと思います。
また、上原さんと同様に、KPIなど明確な数値目標がないことは民間企業と大きな違いだと思います。前職は営業職だったこともあり、売上目標などがあったのですが、現在はそうした数字による個人目標はありません。
あくまで組織のミッションが何であり、自分の仕事がそのミッションの達成に紐づいているのかということを常に意識していかないといけないのは大きな違いですね。
―現在の仕事のやりがいや、難しさを感じる点はどのようなところにありますか
(菊池)先ほどもお話にありましたが、社会課題は非常に大きく根深いもので、一人で解決することはできません。解決に向けてすぐに結果が見えてこないことに、もどかしさや難しさを感じることはありますね。
ただ、色々な人と一歩ずつ解決に向けて活動し、それを間近で見れるのが、この仕事の一番面白い部分ではないでしょうか。
これまで、その課題分野に対して知識や経験のなかった方がどんどん視野を広げていく姿が見られるというのは非常にやりがいに感じますね。
(上原)転職をしたときに「コングルーエンシー」ということを考えていました。自分の信念と行動が一致しなければただストレスになってしまうということです。
その点、サービスグラントに所属し、ミッションに向かって活動していくことは、信念と行動が一致しているということでもあり、やりがいを日々感じることができていますね。
難しさという点では、これまでの仕事と比較すると、個人目標がはっきりしないというところにあると思います。自分の中で物差しを持っておかなければ、非営利組織での仕事は成立しにくいと思います。
自分の仕事がミッションに対して貢献できているのかどうかという点でもそうですし、何をもって仕事ができていると判断するのかという点でも、物差しがないと分からなくなってしまいますね。
また、ミッションに対して強い思いがないと仕事を続けることは難しいと思います。お給料も大事ではありますが、それだけのために働く、ということでは続かない仕事だと思いますね。
―そんなお二人にとって、今後実現したい目標やビジョンはありますか
(上原)個人の目標としては、まずはプロボノのコーディネート能力を磨いていきたいですね。コーディネートすることは非常に難しいものです。皆さん初対面で、そこからチームビルディングし、課題を共有し、そしてソリューションを生み出していかなければなりません。自信をもって出来るようになることが、まず、実現したい目標です。
(菊池)私もコーディネートが一番大事なことだと思っています。お話の冒頭で自治体と協働する事業を担当しているとお伝えしましたが、それをどうやって定着させていくのかということが、取り組みの中で重要なポイントだと思っています。
たとえば、1回プロボノとして参加された方が、その参加をきっかけに、地域活性化にむけてどのように継続して取り組んでくれるのかを追っていかなければいけないと思います。そのため、定期的なアンケートを実施するなど、プロボノ参加後を定点観測する施策を実施しています。
プロボノへの参加が、その人にとって次の一歩となるように繋げていきたいです。サービスグラントが手掛けるプロジェクトは、支援先となるNPO、プロボノワーカーの方々、協働してくれるパートナーがいてこそのものです。だからこそ、コーディネート力を高めて、継続して社会貢献活動に参加し続けてもらえるようにしたいですね。
キャリアを形成する上で、プロボノが果たす役割・効果とは。人生100年時代。様々な経験を積むチャンスを。
―ここからはプロボノが果たす役割や効果についてお伺いしたいと思います。まず、20代の方もプロボノには参加されているのでしょうか(上原)はい、参加されています。参加者の割合としては、30代半ば~40代半ばの方がコアとなっていますが、20代から60代、ときには70代まで幅広い世代の方に参加いただいています。20代の方の参加が難しいということはないと思います。
20代の方が参加するにあたっての理由としては、今の仕事に対してモヤモヤした気持ちをもっていて、外の世界を見てみたいという方が多いように思いますね。今の仕事で良いのだろうか、という気持ちから、何か新しい刺激を受けてみたいのだと思います。
―お二人の経歴をお伺いしても、プロボノが「キャリア形成」で果たす役割・効果は大きいように思えます
(上原)キャリア形成においては、主に2つの役割・効果があるように思います。
一つは今後のキャリアの模索に役に立つということです。色々な人とチームを組んで取り組むのがプロボノです。他の会社や全く別の仕事をしている方の進め方や考え方を知るにはうってつけの機会になると思います。
社会課題の解決という目標に向かって活動していく中で、自分自身の選択肢も広がっていくように思いますね。そして、プロジェクトに頻繁に参加するようになり、プロボノが日常となっていくと、常に社会貢献活動に参加しているという意識も持てるでしょうし、何より、社会課題を解決したいという思いを持ったときにすぐに貢献することができるようになると思います。
二つ目に、人生100年時代と言われる中でパラレルなキャリアを持てることは、それだけで資産になると思います。プロボノはスキルアップにもつながりますが、人脈も作ることもできますので、視野も広がっていきますし、人によってはチームマネジメントの経験をすることもできますので、そうした能力も身に付くのではないでしょうか。
―プロボノにはキャリア形成においても大きな効果がありそうですね。ただ、20代の方の中には自分自身のスキルに自信のない方もいるかもしれません
(上原)社会人として自分自身にスキルがないと思っている人も多いのは事実です。ただ、それは20代に限らず言えることだと思います。私たちが案内をしているのは、チーム単位で取り組むプロジェクトです。チームの中で、一部の役割を担うことが出来ればそれで良いのです。
私が経験したマーケッターという仕事は、課題を抽出してプロジェクトの方向性を示す役割なのですが、人の話を聞いてまとめることが出来れば、どなたでも挑戦できるものだと思います。
プロボノのチーム編成において、年齢や性別は関係なく、あくまでフラットなチームとなることを原則としています。若い方の視点がチームにいい影響を及ぼすことはよくあることですし、フラットで気軽に発言できるからこそ、上の世代の方にもいい影響を与えることができると思います。
―お二人のご経歴やNPOで働くこと、キャリア形成におけるプロボノの果たす役割・効果についてお話を伺いました。最後に、この記事を読む20代の読者の方へアドバイスやメッセージがありましたらお願いします
(上原)プロボノに参加してほしいですね(笑)。プロボノとして社外で活動するにあたって、恐らく20代ですと一番若い存在になると思うのですが、それは特権だと思います。他の参加者から刺激やフォローを受けながら色々なことにチャレンジできるのは貴重です。
パラレルキャリアを築くにあたって、副業などもありますが、いきなり報酬をもらうことは難しいかもしれません。そのような場合は、プロボノが選択肢になりうると思います。
プロボノは適応能力が身に付くと思っています。全然知らない人とコミュニケーションをとり、積極的に意見を発してプロジェクトを進めていくものです。社外の人とそのような関係をもつというアクションをしただけでもすごいことだと思います。
「みんな違ってみんな良い」と有名な言葉もありますが、今の時代は異なる価値観を持つ人と仕事をする時代です。その中で成果を出すことが求められています。その基礎力が、プロボノを通じて身に付くと思います。
また、企業などでマネジメントを経験された方も参加します。プロジェクトの進め方を見るだけでも学べることは多いはずですし、本業とプロボノを両立するということは、タイムマネジメントの能力も身に付くはずです。
(菊池)私も上原さんと同じでプロボノにぜひ!と思っています(笑)。今の会社に居続けて良いのかとモヤモヤした気持ちをお持ちの方もいるとは思いますが、プロボノであれば、転職することに振り切らずに、新しい経験を積むことができます。
また、個人的な経験からも、自身のキャリアの最初の頃の模索期間と言うのは、今後の人生において非常に重要な経験ではないかと思っています。その模索するという行為の中に、気軽に社外で経験を積むことができるプロボノを選択肢として入れていただければと思いますね。
できるだけ早い内にプロボノに参加してもらって、ソーシャルセクターというものを理解してもらえることも、サービスグラントの一人のスタッフとしては、嬉しいことでもあります。
認定NPO法人サービスグラント
2005年設立。日本における「プロボノ」のフロンティアとしてスタートし、2009年にNPO法人化。「社会参加先進国へ」を目指す社会ビジョンとして掲げ、仕事で培った経験・スキルを活かして社会貢献活動をする「プロボノ」の機会を数多く創出。復職を目指す育休ママ・専業ママを対象にした「ママボノ」や、社会参加のために独自開発したプラットフォーム「GRANT」といったユニークな取り組みも実施している。自治体との協働では地域課題の解決に貢献。企業との連携活動においては「社会課題解決型人材育成プログラム プロボノリーグ」を通じ、社員育成を実施する他、CSR活動などにおいても実施のサポートを行っている。メディア掲載実績も多数。
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