2022.09.28INTERVIEW
自動販売機で有名店のラーメンを買う新発想。コロナ禍で売上高80%減のピンチをチャンスに変えた仕掛け人の戦略とは?
20代の働き方研究所 研究員 Y.S.
株式会社丸山製麺
取締役
丸山 晃司(まるやま こうじ)様
東京都大田区に本社を構える昭和33年(1958年)創業の老舗製麺会社である丸山製麺。新型コロナウイルスの流行で飲食業が大打撃を受ける中、飲食店に麺を卸売りしている同社の売上も大きな影響を受けました。そうした逆境の中、名店ラーメンの味を“自動販売機”で楽しめる「ヌードルツアーズ」で業績を回復させただけでなく、新しいラーメンの楽しみ方として数多くのファンを生み出し続けています。今回は同社三代目・仕掛け人の丸山さんにお話を伺いました。新しいビジネス発案の背景には何があったのか、ヌードルツアーズが今後目指すものとは、そしてピンチな状況をチャンスと捉える思考とは―?
ヌードルツアーズ
2021年3月23日リリース。全国の有名店のラーメンを味わえる冷凍ラーメン自販機。丸山製麺が麺を卸している有名ラーメン店とコラボレーションし、24時間購入できる。湯煎で簡単に料理でき、家庭でお店さながらの本格的な味を楽しむことができる。
そうですね。経歴についてお話する前に、まずは前提として30歳くらいで家業に戻ろうという考えがあり、その上でキャリアを設計していました。そのため、それまでに色々な経験を積もうということで、企業に就職する以外の選択肢もあると考え、大学在学中に起業しました。HR領域の事業を展開する会社でしたが、リーマンショックの影響もありクローズすることに。その経験から、きちんと会社に勤めてビジネスを学ぶために、就職活動を始めました。
就職先は株式会社ECナビ(現在は株式会社CARTA HOLDINGSに社名変更)というサイバーエージェントのグループ会社でした。その会社で7年半ほど勤務し、30歳で丸山製麵に入りました。
―ECナビを選ばれたのはどんな理由からだったのでしょうか
30歳で家業に戻ることを考えると、30歳から活躍できる会社ではタイミングが遅いと考え、「20代で意思決定をたくさん経験できる会社」という軸で就職先を探しており、いわゆるベンチャー業界に属する会社の選考を受けていました。最終的にリクルートかECナビのどちらかを選ぶことになったのですが、インターンシップにも参加しており、会社の文化や社員の人柄に魅かれて入社することにしました。
―30歳で家業に戻ることを最初から決められていたそうですが、どんな理由からそのような考えを持たれたのでしょう
現在の丸山製麺の事務所のフロアがかつての住居で、そこで育ちました。他の人から「よく家業に戻る決断をしたね」と言われることもありますが、自分からするとUターンに近い様な感覚で、家業を「継ぐ」というよりは「戻る」という気持ちでいました。
また、小さい頃から社長が工場で働いているのを目にしていたので、スーツを着て働くというイメージを持っていなかったんです。そのため、中学生くらいからスーツを着てネクタイを締めて毎日会社に通うということに違和感を覚えるようになっていましたし、よく卒業アルバムなどで書く「将来の夢」にも「社長」と書いていたくらいなので、家業というものを早くから意識していました。
「30歳」という年齢については特に深い理由はないのですが、「30歳」や「社会人10年目」といったきれいな区切りとなるタイミングにしようと思っていました。実は就職活動でも「30歳で家業に戻りたいから、それまでに色々な経験を積める会社を探しています」と面接で言っていましたね。
―IT業界を選ばれた理由は何だったのでしょう
これも特別な理由があったわけではなく、時代背景もあってのことだと思います。2011年卒として就職活動をしていましたが、ホリエモンが登場した少し後の世代で、まさに学生起業などが盛んになり始めたタイミングでした。
就職活動では楽天やDeNAといった会社も受けていたくらいミーハーな一面もあったのですが、自分の力で新しい領域を切り拓く挑戦をする人が多いところに行きたいという基準で、ITやインターネットそのものに強い関心があったわけではありませんでした。
―ちなみに、実際に家業に戻るタイミングで迷いなどはなかったのでしょうか
「30歳で家業を継ぐ」ということを面接の段階で公言していたくらいなので、人事担当者はもちろん社長も知っていました。だからそれをズルズル延ばして会社に居続けるのもダサいじゃないですか(笑)。
それに周りの社員も早い段階で色々なことを経験させようと部署異動をはじめ支援してくれていました。28歳で採用面接や事業開発のマネジメントなども挑戦させてもらいました。
2018年1月に戻ったのですが、製麺業をしていることは知っていても、どこに卸しているのか、どんな強みがあるのか、どんなマーケットなのかということを最初は知らなかったんです。そこで半年ほど製造の工程にはいり、現場の課題感やマーケットについての理解を深めていきました。
そこからコロナ禍までは、実は製麺業に注力していたわけではありませんでした。自分としては新しいことをするのが好きなのですが、会社にはそうした価値観があまりなかったんです。前職の会社はすごくスピード感のある業界に属していたので、ある事業が2~3年でクローズするということも良くある話なのですが、丸山製麺は製麺業一筋で60年の歴史を持っています。価値観が違うことは致し方ありません。
そうした背景もあったので、営業やマネジメントをしながらも自分で会社をつくったり、4社ほどスタートアップ企業のマーケティング担当をしたりして過ごしていました。
―家業をやりつつも、自分の価値観も大事にしたいということだったんですね
家業をやめるというつもりは全くなかったのですが、決められた時間の中でしか働かないというのは自分の性質には合わなかったですし、新しい業界から遠ざかる危機感もありました。
ITやインターネットサービスという業界から製麺業に移ってそれだけを仕事にしていては、過去の知識だけで生きていくことになると思ったので、自分の強みを持ち続けることも意図して副業していましたね。
―そして新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、飲食店の売上減などを背景に麺の卸業というtoBのビジネスモデルからtoCへ舵を切るという大きな決断をされましたが、その背景について教えてください
まず、自分の強みがtoCのビジネスに生かせるということと、特にコロナ禍でのマーケットの成長を考えると、その領域を選ぶしかありませんでした。もちろん、その中でどのように攻めるかという手法の話はありますが、toBのビジネスのみに絞るといった選択肢はあり得ませんでした。
―とはいえ、ビジネスモデルを大きく変えるにあたり、例えば社員の皆さんの意識改革など課題もあったのではないでしょうか
従業員に対する課題感よりも、当初は父親である社長がtoCに反対というか、コロナへの捉え方が違いました。2~3ヶ月もすれば状況は落ち着くだろうと見ていたので、新しいことに挑戦するのではなく、無駄な経費を出さないことで乗り越えていこうという方針だったんです。
ただ、私は前職の繋がりなどもあって、想像以上に周囲がリモート勤務に切り替わっている現状を目の当たりにし、そしてそれが定着していっていたので、コロナが終ったとしても働き方はそのままだろうと思っていました。コロナで変わった生活様式が一時的かどうかという点で捉え方が違ったということです。
そのため、最初は周囲の同意を得られるとは思っていませんでしたし、実際に社内のコンセンサスを形成せずにスタートしました。もちろん、2020年4月の段階で売上が8割減といった状況でしたので、同意形成をする時間的な余裕もなかったという面もあります。そのままズルズルと続けていれば会社が潰れてしまいます。それだけの事態なので誰かに気を遣って事業を変えようという気持ちはありませんでした。そして、まずは通販サイトで麺を販売することにしたんです。
―深刻な状況だったので即断されたということですが、それにしてもそんなにすぐに通販サイトを立ち上げて販売できたというのも驚きです
サイトを立ち上げて通販を始めたのは決断をしてから1日後のことです。このあたりが前職の経験などを活かせた点だと思います。新規事業をやり慣れていたので、リスクを考えていても何も進まないということが分かっていました。「とりあえず決めてやってみる」という環境に7年身を置いていたのでそうした価値観が身に染みていたんだと思います。
例えば「パッケージはもっとかっこいい方がいいかな」「どんな画像をサイトに掲載しようかな」など、考えることはありますが、そこで止まっていては永遠に始まりません。そこで1日でやろうと決めて、勝手にスタートしました。社員もスタートしてから知ることになりましたね。
―通販サイトの立ち上げからスタートし、自動販売機での販売に着地していますが、その過程にはどんなことがあったのでしょう
通販サイトから自動販売機に移っていったということではなく、実はその途中で小さいながらも新規事業を実施したり、色々な仕込みをしたりしていました。自分が事業を興すときの基本的なスタンスは、60~70点くらいで良いからまずスタートし、そこで出てくる課題感やユーザーニーズに合わせてプロダクトを変化させていくというものです。
通販サイトでは、当初、業務用の麺を販売していました。業務用なので1玉100円くらいの価格ですが1玉ずつ売るわけにもいかず5玉セットで販売していました。ただ、送料で1500円はかかるので結局、2000円くらいになってしまうんです。送料をかからないようにするためには個人で30~40玉くらい買ってもらう必要があるのですが、そんなに買う人はいませんよね(笑)
そこで、現在販売しているような有名ラーメン店とのコラボ商品を作ろうとか色々と案が出て、改善していきましたが、そうは言っても送料はかかってしまいます。それをどうにかしないと、ということで次第に自動販売機での販売に構想が移っていきました。
―自動販売機の他にはどんなアイディアがあったのでしょう
例えば「冷蔵」です。クール便はどうしても送料が高いので、常温で送れる方法はないのかということを模索したり、スープは水を含んでいるので重量が増してしまうことから、希釈タイプにできないかと考えたりしました。
―ヌードルツアーズは有名ラーメン店とのコラボが魅力の一つですが、そうしたラーメン店に実際に赴いて店主の方と関係を築いて製品を生み出しているそうですね
はい。ただ、ヌードルツアーズを始めるからといって関係を築いていったわけではなく、通販開始の時やラーメンイベントなどで以前からお世話になっていたお店も数多くありました。そうした仲の良い店主さんから色々なニーズも伺っていて、時短営業などで売れ行きが下がっている中で、どうにかして売上を上げたいという声もありました。全員がITに詳しい訳でもなければ、むしろ苦手とする方が多い中で、製麺会社としてこうしたお店の支援をさせていただいくこともありました。
その意味で言うと、お店の再生を一緒にやらせていただいていたので、ヌードルツアーズのために関係を築いたというよりは、もともと仲良くさせていただいていました。それを通じて他の製麺会社とは違う強みを持っていることを認知してもらっていたという感じですね。
事業を立ち上げてからは大きな苦労はなく、置いた二日後くらいからYouTuberさんが取り上げてくれて、メディアの話題性に乗ることはできました。
なぜ苦労なくできたのかと言えば、通販サイト立ち上げのときの経験があるからです。当初は「ヌードルツアーズ」という名前ではなく「丸山製麵オンラインショップ」だったのですが、サイト立ち上げ時は世間で「お取り寄せブーム」があり、ある程度は販売も好調だったにもかかわらず、メディアからの取材はありませんでした。そのときの課題感としては、サービスの世界観やサービス名称がしっかりしていないとだめだというものでした。
そこでの反省を踏まえて「ヌードルツアーズ」という名称とし、世界観を築いていきましたので、サービス発足当初からメディアに取り上げてもらう設計はしていました。そうしたPRを戦略的に行うことができていたので、狙い通りにいったという感想です。
―最初にYouTuberの方に取り上げていただいたんですね
その方がチャンネル登録者数100万人くらいいる方で、大阪から来てくれました。事業計画を立てた当初の予想以上にバズったこともあり、それによって生まれた新しい課題を解決し、より期待に応えるためにどうしていくのか模索していかなくてはいけないというのが、苦労と言えば苦労なのかもしれません。
―メディアに取り上げていただく設計とのことですが、自動販売機とすることがメディア戦略だったのでしょうか
当社で使っている自動販売機がサンデン・リテールシステム株式会社の「ど冷(ひ)えもん」という、2021年1月に発売された機械です。それを3月には導入したのですが、全国でも導入事例は10件程度で、自動販売機で売るということだけでメディアに取り上げてもらえたわけではありませんでした。当社きっかけで冷凍自販機で食品を売るという認知が高まっていったのではないかなと思っています。
それに、自販機で販売すると決めた2月時点では「ヌードルツアーズ」という名称も決まっておらず、「丸山製麺直売所」みたいにしようかなと思っていたのですが、リリース2週間前のタイミングで「いや、この名称だったら前回の反省が活かせていない」と思い、名称を考え、ロゴやラッピングを急ぎ作りました。
―なぜヌードルツアーズという名称にしたのでしょう
いくつかあるのですが、まずは「麺」を想像できること。また、以前やっていたうどんのサブスクサービスに「UDON LAB」というものがあり、アルファベットだと読みにくいとか、SEO的な観点から検索したときに似た様な名称のサービスがないかとか、コロナ禍で旅行に行けないから「ツアー」という文言を入れようとか、とにかく色々な観点から決めました。
―YouTuberの方をはじめ、話題にしていただくためには発見していただかないといけないと思うのですが、どのように発信されたのでしょうか
当時はプレスリリースを配信したほか、Twitterでキャンペーンを展開したこともありました。通販サイト時代からSNSアカウントはあったので一定数のフォロワーもいました。結果、YouTuberの方に取り上げていただき、そこからWebメディアに波及し、そしてテレビ番組の取材につながっていきました。
―戦略通りとはいえ、ここまで反響が大きくなるのは予想以上とのお話もありました。当時はどんな感想をもたれたのでしょうか
まずは率直に「当たったな」という感想でしたね(笑)。ただ、その反面、ウェブサービスの領域では一度ヒットしても一瞬で消えていくものもたくさんあります。いかに長く継続的にヒットし続けることができるかに注力しようと思いました。
―継続的なヒットのためにどんな施策をされたのでしょうか
色々な取り組みをしましたが、例えばサービス発足当初はコラボするラーメン店は5店舗でしたが、それを24店舗(2022年9月時点)まで広げました。ラーメン屋さんはコンテンツとして考えていますが、コンテンツの質が下がればユーザーは離れていってしまいますから、開拓の必要はありました。
また、SNSでもヌードルツアーズについて色々と投稿してくれているユーザーにきちんと反応してファンをつくっていくということもしていましたし、いまでこそちゃんとパッキングして販売していましたが当初はパックをガムテープでとめていたので、包装をきれいにしようという試みもしました。
ヌードルツアーズは一食1000円で販売していますので、「安い」とか「お得」といった体験を提供しているわけではありません。自動販売機という中身の見えないところから、ガシャンと出てきて自分で湯煎して食べるという、買ってから食べ終わるまでの体験をいかに最大化できるかという視点で考えています。
―ラーメン屋さんをコンテンツとして捉えているというお話がありましたが、良質なラーメン屋さんはどのように見つけているのでしょう
ありがたいことにラーメン屋さんからアプローチをいただくこともたくさんあります。ただ、ブランドを崩してはいけないのでユーザー目線を第一に厳選しています。
―現在は全国に143の自動販売機を展開されていますが、設置にあたっても色々な戦略を練られていそうですね
冷凍されている麺を茹でて、スープや具材を湯煎して食べるものなので、少し手間がかかります。オフィスのランチなどには不向きですので、帰宅するときに立ち寄りそうなところや、土日など時間があるときに作れるように住宅地の近くに設置するなどはしていますね。
―設置場所によって販売するラーメン店の銘柄も変えているのでしょうか
地方に設置している自動販売機にはオーナーさんがいて、そこに商品を卸していますので、オーナーさんが選んで決めています。人気のラーメン店は東京でも地方でも選ばれる傾向はありますし、夏場は暑いので味噌ラーメンの売れ行きが悪くるぶん、つけ麺が好調になるといった季節性もありますね。一方で長野県や新潟県では味噌を食べる文化があるので夏場でも味噌ラーメンが売れるといった地域特性もあります。あとは、東京ではつけ麺はメジャーですが、地域によってはまだまだサブメニューの扱いであることもありますね。
―地方での反響も大きいのでしょうか
東京よりも地方に設置されている自動販売機の方が1日当たりの売上が大きいこともあります。これまで、東京の人気ラーメンを食べようと思ったときに、通販するか、旅行にいくか、カップ麵で食べるかの選択肢しかなかったわけです。
旅行に行くと3万円くらいかかる、通販にすると1500円くらいになる、コンビニでカップ麺を買うと300円くらいで食べられるけど、全く同じとはいかない。それがヌードルツアーズなら1000円ですのでちょうどいいんです。
―新型コロナウイルスの流行をきっかけに始まった事業ですが、少しずつ日常が戻ってくる中で何か変化を感じられることはありますか
コロナ禍で一気に広がり今では日常となっているUber Eatsなどの宅配サービスがありますよね。コロナ前であればお店で作り立てを食べたいという人が多かったと思うのですが、一度体験するとその利便性に気付き、サービスは継続しています。
それと同じように、ヌードルツアーズも最初は外食できないから買うというものでしたが、今では美味しいから買う、便利だから買うというように変わってきています。
―年内に200店舗という目標を掲げられていますが、その先ではどんな事業ビジョンを描かれているのでしょうか
200店舗という目標も掲げていますが、まだ全都道府県に設置できていないので網羅できるようにしていきたいというのが短期的なビジョンです。
―長期的な視点ではいかがでしょうか
事業の作り方にもよりますが、個人的には長期的な計画を引く意味はあまりないと感じています。2~3年前にコロナ禍になることを想像できた人が誰もいなかったように、10年先を想像してプロダクトを作る意味はあまりないからです。2~3年くらいのスパンでしっかりニーズを捉えて応えていくことがサービスを伸ばすことに繋がると考えます。
―ニーズに応えていくという点で、購入されている方からはどんな反響があるのでしょうか
対面での販売ではないので直接声を聞くという機会はないですが、珍しいからということで自動販売機の写真をSNSに投稿する人も結構います。また、購入した方がその人なりにアレンジしたラーメンをアップするということもあります。例えば、同じ味噌ラーメンでもチャーシューを追加する人がいたり、具材の野菜を変えたりといった方もいて、ラーメン屋さんでできない体験を楽しんでくれています。
また、特に都内に多いのですが女性が一人でラーメン屋さんに入りづらいこともあったり、お子さんがいる方であればゆっくりお店で食べることができないということもあります。二郎系なら量が多いから食べきれないのでシェアしたいといったニーズもあるんです。そうしたニーズに応えることができるのもヌードルツアーズの存在価値なのだと思いますね。
確かに売上の8割が一気になくなってしまった時には資金周りの整理など、色々なことをして土台を整えて潰れないようにしましたが、それからは正直、ピンチを感じることはあまりなかったです。むしろ明らかに生活様式が変わっていく中で、インターネット業界ではどんどん売上が上がっていっていたので、明らかに何かしらのマーケットが生まれていると思いました。
そのためピンチという捉え方よりも、むしろこんなチャンスにビジネスで外さない気もしていました。10年に1回あるかないかのチャンスがいま巡ってきているなか、何もしないという選択はあり得ませんでした。
そして、学生時代に起業を経験したことや、最初に就職した会社で様々な仕事を通じて頑張ることが当たり前の環境にいることができたので、そうした考え方を持つことができたのかなと思っています。
―20代の読者に対して、色々な経験を積まれた丸山さんの視点で、より充実した社会人生活を送るためにどんな経験を積んでおくと良いと感じているかアドバイスをお願いします
学生であっても第二新卒の方であっても基本的には変わらず、やりたいと思ったことをきちんとやるということに尽きると思います。多くの人が「やりたい」で止まってしまっていると思うので、それをやる、そしてやり続けるということが大事です。それはスポーツでも勉強でもビジネスでも何でもいいんです。
私の場合には大学時代にサークルの飲み会などとは違う楽しいことをしたいと思っていて、だから起業をしてみようと思いました。そしてやり始めると同じような思考をもつ人が集まってきて、その中にいることが楽しいと感じるようになっていったんですよね。そんな風にやってみたいことをやり続けてきたから今があるように思います。
―楽しいと思うこと、やりたいと思うことだからビジネスを続けているというのは印象的です
社会課題を解決したいから起業したという学生ではなかったですし、いまも楽しいと思うから続けているという気持ちが強く、それがモチベーションになっているように感じます。ビジネスほど公平性が担保されているものもなく、ある種のゲームのように思うんです。
それに、例えばスポーツであればメダルを取ることや優勝することに価値がありますが、ビジネスなら上位10位に入ればすごいと思われますよね。ルールがこんなに優しいものは他にないという捉え方もしています。
それから、社会課題の解決を目的としていなかったとはお話したものの、ここ数十年で製麺会社はどんどん潰れていってしまっている中で、ヌードルツアーズのような試みで業界が盛り上がっていくのであれば、つまるところ社会貢献に繋がっているとも感じています。
現在は地元の中学生に対して出前授業をすることもあるのですが、その時に必ず言うことは社会に出て働くのは楽しいことだということです。「仕事」というとストレスがたまるものとか我慢しないといけないとかネガティブに捉える人もいますが、そんなことは全くないというのは本気で思いますね。ぜひ、自分がやりたい、楽しいと思うことを見つけてほしいと思います。
株式会社丸山製麵
昭和33年(1958年)創業。業務用麺類製造を主事業に、中華麺、つけ麺、うどん、日本そば、蒸し麺、冷凍麺、ちゃんぽん麺、皮類などを製造。2021年3月より日本で初めて有名店のラーメンを自動販売機で購入できる「ヌードルツアーズ」のサービスを開始。2021年11月には日本トレンドマップ研究所による製麺会社が提供する冷凍ラーメン通販に関するアンケート調査で、「ラーメン好きが選んだ人気No.1」「ラーメン通が選ぶ支持率No.1」「料理人が選ぶおすすめNo.1」の3冠を獲得。2022年9月現在、全国143箇所に設置。
取締役
丸山 晃司(まるやま こうじ)様
東京都大田区に本社を構える昭和33年(1958年)創業の老舗製麺会社である丸山製麺。新型コロナウイルスの流行で飲食業が大打撃を受ける中、飲食店に麺を卸売りしている同社の売上も大きな影響を受けました。そうした逆境の中、名店ラーメンの味を“自動販売機”で楽しめる「ヌードルツアーズ」で業績を回復させただけでなく、新しいラーメンの楽しみ方として数多くのファンを生み出し続けています。今回は同社三代目・仕掛け人の丸山さんにお話を伺いました。新しいビジネス発案の背景には何があったのか、ヌードルツアーズが今後目指すものとは、そしてピンチな状況をチャンスと捉える思考とは―?
ヌードルツアーズ
2021年3月23日リリース。全国の有名店のラーメンを味わえる冷凍ラーメン自販機。丸山製麺が麺を卸している有名ラーメン店とコラボレーションし、24時間購入できる。湯煎で簡単に料理でき、家庭でお店さながらの本格的な味を楽しむことができる。
30歳で家業に戻ると宣言。丸山製麺の取締役に就任するまで
―まずはこれまでのご経歴についてお伺いします。新卒では全く別業界の会社に就職されたそうですねそうですね。経歴についてお話する前に、まずは前提として30歳くらいで家業に戻ろうという考えがあり、その上でキャリアを設計していました。そのため、それまでに色々な経験を積もうということで、企業に就職する以外の選択肢もあると考え、大学在学中に起業しました。HR領域の事業を展開する会社でしたが、リーマンショックの影響もありクローズすることに。その経験から、きちんと会社に勤めてビジネスを学ぶために、就職活動を始めました。
就職先は株式会社ECナビ(現在は株式会社CARTA HOLDINGSに社名変更)というサイバーエージェントのグループ会社でした。その会社で7年半ほど勤務し、30歳で丸山製麵に入りました。
―ECナビを選ばれたのはどんな理由からだったのでしょうか
30歳で家業に戻ることを考えると、30歳から活躍できる会社ではタイミングが遅いと考え、「20代で意思決定をたくさん経験できる会社」という軸で就職先を探しており、いわゆるベンチャー業界に属する会社の選考を受けていました。最終的にリクルートかECナビのどちらかを選ぶことになったのですが、インターンシップにも参加しており、会社の文化や社員の人柄に魅かれて入社することにしました。
―30歳で家業に戻ることを最初から決められていたそうですが、どんな理由からそのような考えを持たれたのでしょう
現在の丸山製麺の事務所のフロアがかつての住居で、そこで育ちました。他の人から「よく家業に戻る決断をしたね」と言われることもありますが、自分からするとUターンに近い様な感覚で、家業を「継ぐ」というよりは「戻る」という気持ちでいました。
また、小さい頃から社長が工場で働いているのを目にしていたので、スーツを着て働くというイメージを持っていなかったんです。そのため、中学生くらいからスーツを着てネクタイを締めて毎日会社に通うということに違和感を覚えるようになっていましたし、よく卒業アルバムなどで書く「将来の夢」にも「社長」と書いていたくらいなので、家業というものを早くから意識していました。
「30歳」という年齢については特に深い理由はないのですが、「30歳」や「社会人10年目」といったきれいな区切りとなるタイミングにしようと思っていました。実は就職活動でも「30歳で家業に戻りたいから、それまでに色々な経験を積める会社を探しています」と面接で言っていましたね。
―IT業界を選ばれた理由は何だったのでしょう
これも特別な理由があったわけではなく、時代背景もあってのことだと思います。2011年卒として就職活動をしていましたが、ホリエモンが登場した少し後の世代で、まさに学生起業などが盛んになり始めたタイミングでした。
就職活動では楽天やDeNAといった会社も受けていたくらいミーハーな一面もあったのですが、自分の力で新しい領域を切り拓く挑戦をする人が多いところに行きたいという基準で、ITやインターネットそのものに強い関心があったわけではありませんでした。
―ちなみに、実際に家業に戻るタイミングで迷いなどはなかったのでしょうか
「30歳で家業を継ぐ」ということを面接の段階で公言していたくらいなので、人事担当者はもちろん社長も知っていました。だからそれをズルズル延ばして会社に居続けるのもダサいじゃないですか(笑)。
それに周りの社員も早い段階で色々なことを経験させようと部署異動をはじめ支援してくれていました。28歳で採用面接や事業開発のマネジメントなども挑戦させてもらいました。
あれこれ考えていては先に進まない。「ヌードルツアーズ」が生まれたきっかけ
―今回お話をお伺いする「ヌードルツアーズ」はコロナ禍で生まれたサービスですが、家業に戻られたときは新型コロナウイルスの感染拡大前でした。最初はどんな会社にしたいなど構想はあったのでしょうか2018年1月に戻ったのですが、製麺業をしていることは知っていても、どこに卸しているのか、どんな強みがあるのか、どんなマーケットなのかということを最初は知らなかったんです。そこで半年ほど製造の工程にはいり、現場の課題感やマーケットについての理解を深めていきました。
そこからコロナ禍までは、実は製麺業に注力していたわけではありませんでした。自分としては新しいことをするのが好きなのですが、会社にはそうした価値観があまりなかったんです。前職の会社はすごくスピード感のある業界に属していたので、ある事業が2~3年でクローズするということも良くある話なのですが、丸山製麺は製麺業一筋で60年の歴史を持っています。価値観が違うことは致し方ありません。
そうした背景もあったので、営業やマネジメントをしながらも自分で会社をつくったり、4社ほどスタートアップ企業のマーケティング担当をしたりして過ごしていました。
―家業をやりつつも、自分の価値観も大事にしたいということだったんですね
家業をやめるというつもりは全くなかったのですが、決められた時間の中でしか働かないというのは自分の性質には合わなかったですし、新しい業界から遠ざかる危機感もありました。
ITやインターネットサービスという業界から製麺業に移ってそれだけを仕事にしていては、過去の知識だけで生きていくことになると思ったので、自分の強みを持ち続けることも意図して副業していましたね。
―そして新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、飲食店の売上減などを背景に麺の卸業というtoBのビジネスモデルからtoCへ舵を切るという大きな決断をされましたが、その背景について教えてください
まず、自分の強みがtoCのビジネスに生かせるということと、特にコロナ禍でのマーケットの成長を考えると、その領域を選ぶしかありませんでした。もちろん、その中でどのように攻めるかという手法の話はありますが、toBのビジネスのみに絞るといった選択肢はあり得ませんでした。
―とはいえ、ビジネスモデルを大きく変えるにあたり、例えば社員の皆さんの意識改革など課題もあったのではないでしょうか
従業員に対する課題感よりも、当初は父親である社長がtoCに反対というか、コロナへの捉え方が違いました。2~3ヶ月もすれば状況は落ち着くだろうと見ていたので、新しいことに挑戦するのではなく、無駄な経費を出さないことで乗り越えていこうという方針だったんです。
ただ、私は前職の繋がりなどもあって、想像以上に周囲がリモート勤務に切り替わっている現状を目の当たりにし、そしてそれが定着していっていたので、コロナが終ったとしても働き方はそのままだろうと思っていました。コロナで変わった生活様式が一時的かどうかという点で捉え方が違ったということです。
そのため、最初は周囲の同意を得られるとは思っていませんでしたし、実際に社内のコンセンサスを形成せずにスタートしました。もちろん、2020年4月の段階で売上が8割減といった状況でしたので、同意形成をする時間的な余裕もなかったという面もあります。そのままズルズルと続けていれば会社が潰れてしまいます。それだけの事態なので誰かに気を遣って事業を変えようという気持ちはありませんでした。そして、まずは通販サイトで麺を販売することにしたんです。
―深刻な状況だったので即断されたということですが、それにしてもそんなにすぐに通販サイトを立ち上げて販売できたというのも驚きです
サイトを立ち上げて通販を始めたのは決断をしてから1日後のことです。このあたりが前職の経験などを活かせた点だと思います。新規事業をやり慣れていたので、リスクを考えていても何も進まないということが分かっていました。「とりあえず決めてやってみる」という環境に7年身を置いていたのでそうした価値観が身に染みていたんだと思います。
例えば「パッケージはもっとかっこいい方がいいかな」「どんな画像をサイトに掲載しようかな」など、考えることはありますが、そこで止まっていては永遠に始まりません。そこで1日でやろうと決めて、勝手にスタートしました。社員もスタートしてから知ることになりましたね。
―通販サイトの立ち上げからスタートし、自動販売機での販売に着地していますが、その過程にはどんなことがあったのでしょう
通販サイトから自動販売機に移っていったということではなく、実はその途中で小さいながらも新規事業を実施したり、色々な仕込みをしたりしていました。自分が事業を興すときの基本的なスタンスは、60~70点くらいで良いからまずスタートし、そこで出てくる課題感やユーザーニーズに合わせてプロダクトを変化させていくというものです。
通販サイトでは、当初、業務用の麺を販売していました。業務用なので1玉100円くらいの価格ですが1玉ずつ売るわけにもいかず5玉セットで販売していました。ただ、送料で1500円はかかるので結局、2000円くらいになってしまうんです。送料をかからないようにするためには個人で30~40玉くらい買ってもらう必要があるのですが、そんなに買う人はいませんよね(笑)
そこで、現在販売しているような有名ラーメン店とのコラボ商品を作ろうとか色々と案が出て、改善していきましたが、そうは言っても送料はかかってしまいます。それをどうにかしないと、ということで次第に自動販売機での販売に構想が移っていきました。
―自動販売機の他にはどんなアイディアがあったのでしょう
例えば「冷蔵」です。クール便はどうしても送料が高いので、常温で送れる方法はないのかということを模索したり、スープは水を含んでいるので重量が増してしまうことから、希釈タイプにできないかと考えたりしました。
―ヌードルツアーズは有名ラーメン店とのコラボが魅力の一つですが、そうしたラーメン店に実際に赴いて店主の方と関係を築いて製品を生み出しているそうですね
はい。ただ、ヌードルツアーズを始めるからといって関係を築いていったわけではなく、通販開始の時やラーメンイベントなどで以前からお世話になっていたお店も数多くありました。そうした仲の良い店主さんから色々なニーズも伺っていて、時短営業などで売れ行きが下がっている中で、どうにかして売上を上げたいという声もありました。全員がITに詳しい訳でもなければ、むしろ苦手とする方が多い中で、製麺会社としてこうしたお店の支援をさせていただいくこともありました。
その意味で言うと、お店の再生を一緒にやらせていただいていたので、ヌードルツアーズのために関係を築いたというよりは、もともと仲良くさせていただいていました。それを通じて他の製麺会社とは違う強みを持っていることを認知してもらっていたという感じですね。
メディアに当てにいく戦略。サービス開始段階で予想以上の反響が
―ヌードルツアーズがスタートし、丸山製麺の目の前に第一機目を置いてからどのように軌道にのせたのでしょうか事業を立ち上げてからは大きな苦労はなく、置いた二日後くらいからYouTuberさんが取り上げてくれて、メディアの話題性に乗ることはできました。
なぜ苦労なくできたのかと言えば、通販サイト立ち上げのときの経験があるからです。当初は「ヌードルツアーズ」という名前ではなく「丸山製麵オンラインショップ」だったのですが、サイト立ち上げ時は世間で「お取り寄せブーム」があり、ある程度は販売も好調だったにもかかわらず、メディアからの取材はありませんでした。そのときの課題感としては、サービスの世界観やサービス名称がしっかりしていないとだめだというものでした。
そこでの反省を踏まえて「ヌードルツアーズ」という名称とし、世界観を築いていきましたので、サービス発足当初からメディアに取り上げてもらう設計はしていました。そうしたPRを戦略的に行うことができていたので、狙い通りにいったという感想です。
―最初にYouTuberの方に取り上げていただいたんですね
その方がチャンネル登録者数100万人くらいいる方で、大阪から来てくれました。事業計画を立てた当初の予想以上にバズったこともあり、それによって生まれた新しい課題を解決し、より期待に応えるためにどうしていくのか模索していかなくてはいけないというのが、苦労と言えば苦労なのかもしれません。
―メディアに取り上げていただく設計とのことですが、自動販売機とすることがメディア戦略だったのでしょうか
当社で使っている自動販売機がサンデン・リテールシステム株式会社の「ど冷(ひ)えもん」という、2021年1月に発売された機械です。それを3月には導入したのですが、全国でも導入事例は10件程度で、自動販売機で売るということだけでメディアに取り上げてもらえたわけではありませんでした。当社きっかけで冷凍自販機で食品を売るという認知が高まっていったのではないかなと思っています。
それに、自販機で販売すると決めた2月時点では「ヌードルツアーズ」という名称も決まっておらず、「丸山製麺直売所」みたいにしようかなと思っていたのですが、リリース2週間前のタイミングで「いや、この名称だったら前回の反省が活かせていない」と思い、名称を考え、ロゴやラッピングを急ぎ作りました。
―なぜヌードルツアーズという名称にしたのでしょう
いくつかあるのですが、まずは「麺」を想像できること。また、以前やっていたうどんのサブスクサービスに「UDON LAB」というものがあり、アルファベットだと読みにくいとか、SEO的な観点から検索したときに似た様な名称のサービスがないかとか、コロナ禍で旅行に行けないから「ツアー」という文言を入れようとか、とにかく色々な観点から決めました。
―YouTuberの方をはじめ、話題にしていただくためには発見していただかないといけないと思うのですが、どのように発信されたのでしょうか
当時はプレスリリースを配信したほか、Twitterでキャンペーンを展開したこともありました。通販サイト時代からSNSアカウントはあったので一定数のフォロワーもいました。結果、YouTuberの方に取り上げていただき、そこからWebメディアに波及し、そしてテレビ番組の取材につながっていきました。
―戦略通りとはいえ、ここまで反響が大きくなるのは予想以上とのお話もありました。当時はどんな感想をもたれたのでしょうか
まずは率直に「当たったな」という感想でしたね(笑)。ただ、その反面、ウェブサービスの領域では一度ヒットしても一瞬で消えていくものもたくさんあります。いかに長く継続的にヒットし続けることができるかに注力しようと思いました。
―継続的なヒットのためにどんな施策をされたのでしょうか
色々な取り組みをしましたが、例えばサービス発足当初はコラボするラーメン店は5店舗でしたが、それを24店舗(2022年9月時点)まで広げました。ラーメン屋さんはコンテンツとして考えていますが、コンテンツの質が下がればユーザーは離れていってしまいますから、開拓の必要はありました。
また、SNSでもヌードルツアーズについて色々と投稿してくれているユーザーにきちんと反応してファンをつくっていくということもしていましたし、いまでこそちゃんとパッキングして販売していましたが当初はパックをガムテープでとめていたので、包装をきれいにしようという試みもしました。
ヌードルツアーズは一食1000円で販売していますので、「安い」とか「お得」といった体験を提供しているわけではありません。自動販売機という中身の見えないところから、ガシャンと出てきて自分で湯煎して食べるという、買ってから食べ終わるまでの体験をいかに最大化できるかという視点で考えています。
―ラーメン屋さんをコンテンツとして捉えているというお話がありましたが、良質なラーメン屋さんはどのように見つけているのでしょう
ありがたいことにラーメン屋さんからアプローチをいただくこともたくさんあります。ただ、ブランドを崩してはいけないのでユーザー目線を第一に厳選しています。
―現在は全国に143の自動販売機を展開されていますが、設置にあたっても色々な戦略を練られていそうですね
冷凍されている麺を茹でて、スープや具材を湯煎して食べるものなので、少し手間がかかります。オフィスのランチなどには不向きですので、帰宅するときに立ち寄りそうなところや、土日など時間があるときに作れるように住宅地の近くに設置するなどはしていますね。
―設置場所によって販売するラーメン店の銘柄も変えているのでしょうか
地方に設置している自動販売機にはオーナーさんがいて、そこに商品を卸していますので、オーナーさんが選んで決めています。人気のラーメン店は東京でも地方でも選ばれる傾向はありますし、夏場は暑いので味噌ラーメンの売れ行きが悪くるぶん、つけ麺が好調になるといった季節性もありますね。一方で長野県や新潟県では味噌を食べる文化があるので夏場でも味噌ラーメンが売れるといった地域特性もあります。あとは、東京ではつけ麺はメジャーですが、地域によってはまだまだサブメニューの扱いであることもありますね。
―地方での反響も大きいのでしょうか
東京よりも地方に設置されている自動販売機の方が1日当たりの売上が大きいこともあります。これまで、東京の人気ラーメンを食べようと思ったときに、通販するか、旅行にいくか、カップ麵で食べるかの選択肢しかなかったわけです。
旅行に行くと3万円くらいかかる、通販にすると1500円くらいになる、コンビニでカップ麺を買うと300円くらいで食べられるけど、全く同じとはいかない。それがヌードルツアーズなら1000円ですのでちょうどいいんです。
―新型コロナウイルスの流行をきっかけに始まった事業ですが、少しずつ日常が戻ってくる中で何か変化を感じられることはありますか
コロナ禍で一気に広がり今では日常となっているUber Eatsなどの宅配サービスがありますよね。コロナ前であればお店で作り立てを食べたいという人が多かったと思うのですが、一度体験するとその利便性に気付き、サービスは継続しています。
それと同じように、ヌードルツアーズも最初は外食できないから買うというものでしたが、今では美味しいから買う、便利だから買うというように変わってきています。
―年内に200店舗という目標を掲げられていますが、その先ではどんな事業ビジョンを描かれているのでしょうか
200店舗という目標も掲げていますが、まだ全都道府県に設置できていないので網羅できるようにしていきたいというのが短期的なビジョンです。
―長期的な視点ではいかがでしょうか
事業の作り方にもよりますが、個人的には長期的な計画を引く意味はあまりないと感じています。2~3年前にコロナ禍になることを想像できた人が誰もいなかったように、10年先を想像してプロダクトを作る意味はあまりないからです。2~3年くらいのスパンでしっかりニーズを捉えて応えていくことがサービスを伸ばすことに繋がると考えます。
―ニーズに応えていくという点で、購入されている方からはどんな反響があるのでしょうか
対面での販売ではないので直接声を聞くという機会はないですが、珍しいからということで自動販売機の写真をSNSに投稿する人も結構います。また、購入した方がその人なりにアレンジしたラーメンをアップするということもあります。例えば、同じ味噌ラーメンでもチャーシューを追加する人がいたり、具材の野菜を変えたりといった方もいて、ラーメン屋さんでできない体験を楽しんでくれています。
また、特に都内に多いのですが女性が一人でラーメン屋さんに入りづらいこともあったり、お子さんがいる方であればゆっくりお店で食べることができないということもあります。二郎系なら量が多いから食べきれないのでシェアしたいといったニーズもあるんです。そうしたニーズに応えることができるのもヌードルツアーズの存在価値なのだと思いますね。
「やりたい」で止まらずやってみること。社会に出て「楽しい」と感じるには
―ここまで色々なお話を聞かせていただきありがとうございます。コロナ禍で8割も売上が減少するピンチの中で新たなビジネスを興されましたが、そうしたピンチをチャンスに変えた経験をした経営者として大事にしている考えやマインドがあれば教えてください確かに売上の8割が一気になくなってしまった時には資金周りの整理など、色々なことをして土台を整えて潰れないようにしましたが、それからは正直、ピンチを感じることはあまりなかったです。むしろ明らかに生活様式が変わっていく中で、インターネット業界ではどんどん売上が上がっていっていたので、明らかに何かしらのマーケットが生まれていると思いました。
そのためピンチという捉え方よりも、むしろこんなチャンスにビジネスで外さない気もしていました。10年に1回あるかないかのチャンスがいま巡ってきているなか、何もしないという選択はあり得ませんでした。
そして、学生時代に起業を経験したことや、最初に就職した会社で様々な仕事を通じて頑張ることが当たり前の環境にいることができたので、そうした考え方を持つことができたのかなと思っています。
―20代の読者に対して、色々な経験を積まれた丸山さんの視点で、より充実した社会人生活を送るためにどんな経験を積んでおくと良いと感じているかアドバイスをお願いします
学生であっても第二新卒の方であっても基本的には変わらず、やりたいと思ったことをきちんとやるということに尽きると思います。多くの人が「やりたい」で止まってしまっていると思うので、それをやる、そしてやり続けるということが大事です。それはスポーツでも勉強でもビジネスでも何でもいいんです。
私の場合には大学時代にサークルの飲み会などとは違う楽しいことをしたいと思っていて、だから起業をしてみようと思いました。そしてやり始めると同じような思考をもつ人が集まってきて、その中にいることが楽しいと感じるようになっていったんですよね。そんな風にやってみたいことをやり続けてきたから今があるように思います。
―楽しいと思うこと、やりたいと思うことだからビジネスを続けているというのは印象的です
社会課題を解決したいから起業したという学生ではなかったですし、いまも楽しいと思うから続けているという気持ちが強く、それがモチベーションになっているように感じます。ビジネスほど公平性が担保されているものもなく、ある種のゲームのように思うんです。
それに、例えばスポーツであればメダルを取ることや優勝することに価値がありますが、ビジネスなら上位10位に入ればすごいと思われますよね。ルールがこんなに優しいものは他にないという捉え方もしています。
それから、社会課題の解決を目的としていなかったとはお話したものの、ここ数十年で製麺会社はどんどん潰れていってしまっている中で、ヌードルツアーズのような試みで業界が盛り上がっていくのであれば、つまるところ社会貢献に繋がっているとも感じています。
現在は地元の中学生に対して出前授業をすることもあるのですが、その時に必ず言うことは社会に出て働くのは楽しいことだということです。「仕事」というとストレスがたまるものとか我慢しないといけないとかネガティブに捉える人もいますが、そんなことは全くないというのは本気で思いますね。ぜひ、自分がやりたい、楽しいと思うことを見つけてほしいと思います。
株式会社丸山製麵
昭和33年(1958年)創業。業務用麺類製造を主事業に、中華麺、つけ麺、うどん、日本そば、蒸し麺、冷凍麺、ちゃんぽん麺、皮類などを製造。2021年3月より日本で初めて有名店のラーメンを自動販売機で購入できる「ヌードルツアーズ」のサービスを開始。2021年11月には日本トレンドマップ研究所による製麺会社が提供する冷凍ラーメン通販に関するアンケート調査で、「ラーメン好きが選んだ人気No.1」「ラーメン通が選ぶ支持率No.1」「料理人が選ぶおすすめNo.1」の3冠を獲得。2022年9月現在、全国143箇所に設置。