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2024.03.13INTERVIEW

生産者を悩ませる「脱脂粉乳」をアップサイクリング。おいしさと社会貢献を両立するクラフトスイーツメーカーとは?

20代の働き方研究所 研究員 Y.S.
株式会社HiOLI(ヒオリ)
代表取締役
西尾 修平(にしお しゅうへい)様


クラフトアイスクリームブランド「HiO ICE CREAM(ヒオアイスクリーム)」、クラフトバタースイーツブランド「Butters(バターズ)」、チーズスイーツ「山ノチーズ」を手掛ける株式会社HiOLI。お菓子に欠かせないバターは1kgを製造するのに20kg以上の生乳が必要と言われていますが、その過程で大量の脱脂粉乳も副産物として生まれてしまいます。そして、それには使用用途が見つからないという課題がありましたが、HiOLIではその脱脂粉乳も活用したスイーツを製造。おいしさを追求しつつ、素材を余すことなく使うことを両立させています。西尾さんは、リクルートやMIXIなどでキャリアを積み、同社を2018年に立ち上げました。まったく異なる業界からクラフトスイーツブランドを立ち上げるまでにどんなキャリアをたどっていったのか、また、HiOLIを通じて実現したいことは何か、お話を伺いました。

PDCAではなくDCPA。まずはトライすることで切り開いたキャリア

―リクルートやMIXIで勤務されるなど、様々なご経歴を経て会社を設立されたのですね

(西尾)現在43歳で、社会人になってちょうど20年を迎えました。この20年を大きく大別すると、まず新卒でリクルートに入社し、その後、投資ファンドで企業再生に関する仕事やMIXIでの勤務を経験し、そして現在に至ります。

新卒での就職活動では漠然と「社会の役に立つ仕事がしたい」と思っていました。人々を安全に目的地まで届けるパイロットという仕事にも憧れていた時期もあれば、より多くの人々の生活が充実するような仕事もしてみたいと思ったこともありました。それも、政治や行政の立場ではなく、ビジネスを通じて生活者と近いところで活躍したいというものでした。そこで、「何をするのか」ということも大切ですが、「誰とやるのか」ということも大事だと気づき、当時、採用力があると言われていた企業の選考を受け、仲間を集めるとはどういうことなのかを学ぼうと思ったのです。

リクルート以外にも様々な業界の企業の選考を受け、証券会社や広告代理店、航空会社などからも内定をいただくことができましたが、リクルートの選考で強く感じたことは多様な人材が在籍していて、活躍の型が一つではないということでした。また、事業領域が広く、当時も多くの社員が新しい事業創出に挑戦しており、自分もそこに加わってみたいという思いもありました。さらに、人事担当の方は「あなたはリクルートで何を成し遂げたいのか」ということを深く聞く方で、自身を深く見つめなおすことができたように思います。就職活動はもちろん、リクルートに在籍している間も、常に何かを成し遂げようという意識を持つことができましたので、自分のキャリアの中でも貴重な経験であったと思います。

その後の投資ファンドでは、レジャー施設や食品会社などの企業再生を担当しました。いわゆるハンズオン投資でしたので、経営コンサルティングなども行い、20代後半から30代というタイミングで企業経営の在り方についても学ぶことができたのです。また、担当した企業に入り込んで経営の舵取りをする中で、自分の父親と同じくらいの年代の方とお仕事をさせていただく経験も積むことができました。

その後、MIXIへと転職しました。ソーシャル・ネットワーキングサービス「mixi」が一世を風靡していましたが、LINEなどの競合サービスが次々生まれ、デバイスもガラケーからスマートフォンへと移り変わるという激しく状況が変わるタイミングでした。そこに縁あって転職の機会をいただき、経営メンバーのひとりとして経営企画やファイナンスの領域をサポートしていました。新規事業を立ち上げること、そしてコミュニケーションや繋がりを重んじる会社であることから、お客様と深くコミュニケーションをとることの大切さを学ぶことができましたね。また、自分でリスクテイクする事業側の役割にも挑戦したいと考えるようになりました。

―様々なキャリアを選択されてきましたが、常にどんなことを意識されてきたのでしょうか

(西尾)新卒で入社したリクルートの上司に指導されたことが大きく影響しているように思います。営業職として入社し、当初はなかなか成果を上げることができませんでした。その時に、いろいろとアイディアを考えることも悪くはないが、まずは小さくても良いから何かを成し遂げるために実行していこうということでした。PDCAサイクルとよく言いますが、Pにばかり時間を割き頭でっかちになって動けないくらいなら、DCAPの順序でまずはトライしてみようということです。このことは私の中にずっと残り続けています。

―そして前職のスイーツメーカーを経て、HiOLIの立ち上げに至るのですね

(西尾)そもそも昔からスイーツが好きで、当初は定年まで勤め上げ、65歳になって引退をしたらスイーツにまつわる仕事をしようと考えていました。ただ、父親が62歳のときに癌で他界し、「65歳まで待っていてはやりたいことが実現できないかもしれない」と思ったのです。やりたいことは体が動くうちに挑戦しないと、不完全燃焼になってしまうかもしれない、そう考えてのことでした。

そうしたときに、縁あって前職のスイーツメーカーの経営にかかわる機会をいただけたのです。スイーツは製造過程で大量にバターを使うので、乳業メーカーにもっと多くの生産を依頼したのですが、それはできないと断られました。理由を聞いてみると、製造過程でバターの倍以上の脱脂粉乳が生まれ、それを解決しないことには増産ができないと言うのです。恥ずかしながら、そんな課題があったことをこの時に初めて知りました。これをそのままにしては増産できないことはもちろん、フードロスにも繋がってしまいます。それであれば、脱脂粉乳を活用したスイーツを生み出せないかと考え、アイスクリームや焼き菓子といったメニュー開発に専念できるようにHiOLIを立ち上げたのです。

―スイーツが昔から好きだったのですか

(西尾)常にいろいろなスイーツのある家でした。毎週末、父親と近くのお菓子屋さんに行って、家族の分のアイスクリームを買うことが習慣で、それをすごく楽しみにしていました。いつか自分も親になったら同じように子どもと買いに行きたいと思っていましたし、子どもに買い与える以上、安心して食べられるようなスイーツが増えていけば良いなと思っていました。


BLUE BOTTLE COFFEEの精神を汲んだ企業経営

―社名にはどんな意味が込められているのでしょう

(西尾)Hi(ヒ)にはお日様や太陽の恵み、O(オ)は輪っか、LI(リ)はリンク(繋がり)の意味があります。太陽の恵みを受けた良い素材を活かし、みんなでおいしいお菓子を輪になって食べ、生産者や社会とのつながりも実現していく、そんな想いを込めています。

―自由が丘に特徴的な外観の店舗を構えられているのにも理由があるのでしょうか

(西尾)起業するにあたり、どのようなブランドを築いていきたいかを考えました。もともと、同業との違いを意識していたこともありましたので、同業他社の戦略や方針を分析するのではなく、他業種の取り組みを参考にしていたのです。その際に参考にしたのが「BLUE BOTTLE COFFEE」でした。

日本進出の前にサンフランシスコの店舗を訪れる機会があり、「こんなにおいしいコーヒーがあるのか」と衝撃を受けたのです。BLUE BOTTLE COFFEEはシングルオリジンコーヒーの先端を行っており、原産地や生産者の顔が見えることや、生産プロセスをオープンにしていることが特徴です。そのうえで、豆ごとに最もおいしくなる温度や抽出方法を見出し、それを定量化して多店舗展開しているため、コーヒーのおいしさはもちろん、口にするまでにどれだけの人がかかわっているのかを多くの方に意識させることに成功しています。

創業者であるジェームス・フリーマン氏は、拡大生産していく中でサービス提供の定量化と高い品質を維持することを意識しています。そのため、ドリップマシンを使うのではなくハンドドリップにこだわっています。お客様をお待たせするぶん、生産性や価格競争の観点では劣るかもしれません。しかし、お客様もそれを理解して購入しているのです。スターバックスコーヒーなどの大手チェーンと大きく一線を画す経営手法です。

こうした会社の生き方があることに感銘を受けました。そこで、私の会社はお菓子業界のBLUE  BOTTLE COFFEEの様になろうと決意したのです。実際に起業にあたってはジェームス氏にもアドバイスを受けました。「生産の手間を惜しまないこと」「産地には自身の足を運ぶこと」「メーカーとして生産プロセスをオープンにすること」この3つを学ぶことができました。
 


―それが起業の理念にもなり、事業運営における大事な考え方となっているのですね

(西尾)店舗の外観をガラス張りにしてオープンにしているのも、道行く人から製造の様子を見えるようにしたいという考えからです。またこの工房には2つの価値があります。1つはおいしいアイスクリームやお菓子をつくるということですが、もう1つはラボとしての機能があるということです。いまではナチュラルローソン様や成城石井様などのパートナー企業の皆様にも私たちの商品を扱っていただいておりますが、その原型はここから生まれています。品質にブレがでないよう、ここで定量的な生産方法を生み出しているのです。

また、自由が丘は都心からのアクセスも良く、クラフト文化が根付いているサンフランシスコのミッション地区のような落ち着いた雰囲気があることから選びました。
 
 


おいしさなしには、社会貢献も実現できない

―それにしても、バターの製造過程で生まれた脱脂粉乳を活かしてスイーツを作るというのは、他のメーカーではあまり行われていないのでしょうか

(西尾)かなり珍しいことだと思います。脱脂粉乳はその名の通り、油分がないため濃厚さを出すことができないからです。ただ、そうしたデメリットにばかり目を向けるのではなく、メリットに目を向け、香料としたり、生地に練りこむことで風味豊かなスイーツに仕上げることができています。まさにアップサイクリングを実現できていると感じています。

―香料や生地に練りこむといった活用方法を見出すのに、試行錯誤を何度も繰り返されたのではないでしょうか

(西尾)2年弱のHiO ICE CREAMとButtersの開発期間に、何十回、何百回も試作品を作りましたし、試作品でうまくいったとしても、それを量産するとなるとまた工夫が必要です。現在、当社で活躍しているパティシエと出会ったことで、徐々に量産体制も築くことができるようになりました。

―そうした苦労を経て社会課題を解決するスイーツが生まれたということなのですね

(西尾)その通りです。ただし、スイーツですから社会課題を解決することよりも、まずはおいしいことが優先されなければなりません。「社会課題を解決するために食べてください」と言っても購入してくれる方は多くはないかもしれません。

脱脂粉乳を使うのも、それをうまく活用することでおいしいものが生まれる確信が持てたからです。また、実際においしいと感じていただけることで、少しずつファンも増えていきます。そうなれば、意識せずに自然と社会貢献につながる活動をする人が増えていくことにつながります。

大手メーカーをはじめ、お客様は様々な選択肢の中からスイーツを買うことができますが、私たちは合成添加物を使わず、社会貢献につながる脱脂粉乳を活用したスイーツを生み出すことを差別化のポイントとしているのです。

―脱脂粉乳を使うことに加えて、原材料も北海道産のものにこだわっているとお聞きしています

(西尾)会社をつくった当時は生産者の方とのパイプはありませんでしたので、ゼロから人脈を築き上げていきました。レンタカーだけ借りて北海道に行き、稚内から札幌までを南下していく道中で売られている牛乳などを口にし、これは良いものだと思ったら酪農家の方に電話をして「今から伺ってもいいですか?」とその場でアポイントをとっていました。いま使っている美瑛町の牛乳も、たまたま道の駅で休憩していた時に買ったものがおいしくて見つけることができたものです。

もちろん、最初から北海道のものと決めていたわけではなく、当時は全国40ヵ所ほどの生産者のもとを訪れました。より濃厚な牛乳の産地もありましたが、「濃厚さと軽さのバランス」をテーマとしており、絶妙なバランスだったのが北海道の生産者の方で、お願いすることにしたのです。

―すぐに原材料を提供いただけたのでしょうか

(西尾)もちろんそうではありません。何度もお時間をいただき、私たちのことを好きになってもらうためにこちらの姿勢を示していきました。ただ、起業から2年、3年と経つにつれて徐々に厚い信頼関係が築けるようになり、最初にお願いした生産者の方から別の方をご紹介いただくなどして、輪を広げることができました。まさにご縁あっての繋がりです。

―これからの目標や展望について教えてください

(西尾)何か大きな展望があるわけではなく、まずこの事業を続けていきたいという思いがあります。長く続けるほど、脱脂粉乳の問題も解決していけますし、私たちに協力していただいている生産者の方にも貢献することができます。そのために、商品をお買い求めいただくお客様の様子や反応も見つつ、より良いお菓子作りを続けていきたいですね。

―お客様からの声を商品の改善などに活かされているのですね

(西尾)お客様から頂いたご意見は貴重ですので、大いに参考にさせていただいています。ただし、お客様の声だけで商品改善や新商品の開発をしているわけではありません。あくまでも大手メーカーが作れないような、私たち独自の付加価値のある商品づくりが第一にあるのです。

また、商品の売れ行きなどもお客様の声だと考えています。新商品をお買い求めいただいたお客様が再度購入されない場合、何か原因があるはずです。そのポイントを探るうえで売れ行きといった数値データも参考にしています。
 
 


いいキャリアを築くには開心すること

―ここまでお話いただきありがとうございました。最後に読者へのメッセージをお願いいたします

(西尾)まずはやってみたいことを実行したり、挑戦してほしいと思っています。私もたくさんの失敗をしてきましたが、転職や起業をしていく中で多くの仲間との繋がりを築くことができました。これは行動したことがあってこその財産です。たしかに、行動できない理由や事情はあるのかもしれません。しかし、自分が実現したいことやその理由を真剣に考えると、実はできない理由よりも数多く出てくるのではないかと思っています。まずは、自分自身が成し遂げたいことに目を向けてみてください。また、「行動する」というのは転職や起業することだけではありません。今の会社に留まり、いま担当している仕事の意味を見直したり、やり方を変えていくことも立派な行動です。

それから、これから就職活動をされる方には、どんな規模の会社であっても成長できるということをお伝えしたいです。ベンチャー企業や小規模の会社であれば様々な仕事を担当し責任領域も広く、それだけで成長していくことができると思います。一方で大企業の場合には責任領域は狭いかもしれませんが、社会に与えるインパクトの大きな事業にかかわることができます。重要なことは自分が幸せだと感じられる会社や仕事に巡り会えるかどうかだと思います。

参考までに、当社では採用にあたって「開心できているかどうか」をポイントにしています。たとえ経験が浅い方であったとしても、「やってみたいこと」が明確な方が伸びしろが大きいと感じているからです。心を開いて就職先を探すほうが、幸せを感じられる会社や仕事が見つけやすいのではないでしょうか。

株式会社HiOLI(ヒオリ)
2018年8月設立。東京・自由が丘に自社工房を構え、クラフトスイーツの製造・販売を手掛ける。全国から厳選した素材を集め、香料・着色料といった合成添加物を使わない上質なスイーツを生み出している。パーパスは「乳の価値をアップデートし、やさしい社会生活を創造する」こと。

この記事を書いた人

20代の働き方研究所 研究員 Y.S.

1991年12月生まれ。
新卒で大手新聞社に入社。記者として取材・記事の執筆を経験後、Webサービスを手掛ける企業に転職。約20名のメンバーのマネジメントの傍ら、Webサイトの開発・サイトの集客プロモーション・取材やライティングを幅広く担当。20代の働き方研究所では、企業へのインタビュー取材・取材記事執筆を担っている。
#カスタマーサクセス #コンテンツディレクション #イベントプロモーション #仕事終わりの晩酌が日課

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