^{こばやし・いたる◆1968年、神奈川県逗子市生まれ。92年、千葉ロッテマリーンズにドラフト８位で入団。史上３人目の東大卒プロ野球選手となる。93年退団。翌94年から７年間、アメリカに在住。その間、コロンビア大学で経営学修士号（MBA）を取得。2002年から江戸川大学助教授、06年から同教授。05年から14年まで福岡ソフトバンクホークス取締役を兼任。立命館大学客員教授のほか、各メディアでも幅広く活動中。}

――書かれた本がきっかけで、福岡ソフトバンクホークスの取締役に？

　そう、『合併、売却、新規参入。たかが…されどプロ野球！』を読んでいただいた孫正義さん（ソフトバンクグループ会長兼社長）から連絡がきて「小林さん、経営を手伝ってよ」と。「君、英語もできるでしょう？　大リーグについても知ってるでしょう？」って。渡米から10年、ここでようやくコロンビア大のMBA（経営学修士号）も、アメリカでの７年の生活も、役に立ったわけです。

　在任中は、様々な改革に取り組む機会に恵まれました。球場に来るお客さんに満足してもらうためには、いい試合を見せるだけではダメ。お客さんのニーズに合わせた座席シートや動線を整備したり、ファンクラブを会員組織化して優待制度を作ったり。その後、王貞治球団会長からチームの改革も任せていただいて、プロ野球初の三軍制を導入するなど、いろいろと新機軸に取り組むことのできた、かけがえのない10年間でした。

――要所で、すごい方々と、いい出会いをされていらっしゃいますね。　

　運と縁に恵まれてきました。ロッテの金田正一さんにはじまり、渡辺恒雄さん、孫正義さん、王貞治さん……日本の歴史に名前の残るお歴々に「こいつはおもしろいんじゃないか」と思っていただいたのですから。

　王貞治さんがよくこうおっしゃっていました。「小さな成功体験を積み重ねてほしい」と。なぜなら人間は弱いから、そんなにはがんばれない。でも目の前の目標を達成すると「あ、できた！」という自信が生まれる。それで次に進めるんだ、と。

――大学で教えていらっしゃる立場から、いまの若い人たちに思うことは？

　いまの若者は僕らの若いころより、はるかに賢いし、洗練されています。実際、僕が大学生だった30年前より、いまの大学生にはおよそ３倍の情報処理能力があるそうです。公務員志向が強いのも、人生を長いスパンで考えたり、仕事と趣味を分けたり、という人生のプランや展望があるからでしょう。それは「進化」なんだと思います。

　ただ、人生の少し先輩としてアドバイスするならば、勇気を持って挑戦してみることもやって欲しいなあと思いますね。行動して小さな成功、失敗をたくさん経験し、達成感や挫折もたくさん味わってほしい。成功体験は自信になりますし、失敗体験は「転ばぬ先の杖」になりますから。

^{撮影：大嶋千尋}

――転職の先輩としてメッセージを。

　僕の職歴は、プロ野球に３年、アメリカのケーブルテレビ局に４年、福岡ソフトバンクホークスに10年、江戸川大学に籍を置いて17年です。この経歴が何を物語っているかというと、ある年齢になると当たり前だけれど可能性は狭くなる、ということ。この年から医者を目指してもできなくはないと思うけど、症例数はどうしたって限られてしまいますよね。10年、20年同じことをしてから「違うことをしたい」と思ってもなかなか難しい。40歳を過ぎるくらいからかな、勝負手は、それまで培ってきたスキルと経験の組み合わせでの総合力になっていきます。知恵の妙手はあるけれども、あっと驚くような突き抜けた一手は出ない。「これはダメだな」と思ったら、早いうちに見切りをつけて、別の切り口で勝負してみないと後で後悔するんじゃないでしょうか。それでも、最低３年くらいはやらないと自分の決断がどうだったのかもわからないとは思いますが、基本的には若いうちはやりたいことがあったら、どんどん次に行ったほうがいい。その経験のなかで、何かしら「これ」というものに出会えるのだと思いますよ。

（おわり）

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